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11.猪突から始まる攻防

11話目です。

よろしくお願いします。

 一番槍はアシュリンが勝ち取った。

 身体強化魔法をフルに活かした見事な脚力を見せ、いの一番に村の中へ飛び込んだかと思うと、槍をふるって二人の兵士をまとめてたたき伏せたのだ。

「アシュリン・ウーレンベック! 参る!」

 正面にいる兵士を串刺しにして、蹴り飛ばしたアシュリンは大声を上げた。


 戦場の空気に酔って興奮している、と追いついたヴェルナーはアシュリンの様子を見てとった。猪武者そのものだ。

「片方は腰が引け過ぎかと思ったら、もう一人は勇み足か」

 ままならないね、とヴェルナーは苦笑しながら、一握りの爆薬を敵集団の背後に放り捨ててすぐに起爆した。


 爆発に驚いた兵士たちの視線がヴェルナーやアシュリンから外れたところを狙って、ヴェルナーはアシュリンが着る鎧の襟を掴んで無理矢理に引き下がらせた。

「あっ!?」

「ぬぅん!」

 一度入口まで引いたヴェルナーたちと入れ替わるように、ミリカンが突出し大剣を振り回して目をそらした敵兵を薙ぎ倒した。


「落ち着け、ウーレンベック。お前が敵の中に囲まれたら、何のために接敵場所を絞ったかわからんだろう」

 少しは考えろ、と言われたアシュリンは、自分が何か失敗したらしいことは気づいていたが、何かまではわかっていないようだ。

「はあ……狭い出入り口だけで接敵して、そこに敵を引き付けてくれ。任せたぞ」


「かしこまりました!」

 元気よく返事をすると、ヴェルナーに指定された場所に立ったアシュリンは獅子奮迅の活躍を始めた。突きの鋭さはヴェルナーにも見切るのが難しい程で、敵兵は次々と死体に変わっていく。

 一撃して退いてきたミリカンもアシュリンに並び戦う。


「お前たちもミリカンたちの援護を。邪魔にならないように少し後ろでな。彼らの後背を守るように」

「はっ! みんな、行くぞ!」

 ヴェルナーはさらに下がって、ファラデーたちに指示を出した。

 そして、最初の突撃で気付いた敵の兵士たちの奇妙さについて考えを巡らせる。


「一部隊じゃないな。二つの異なるグループが混ざっている」

 動きに統一感がないことを悟ったヴェルナーは、ミリカンやアシュリンに対する敵の動きを観察していた。

 大きく左右の敵は別の連中だろう。それぞれに息が合っておらず。正面に奇妙なスペースがある。


「どういうことだ?」

 考えがその“理由”に向かうのを押しとどめ、まずは目の前の敵への対応について向ける。

 敵兵数は約五十。中には村人らしい者は含まれていないので、半分はスド砂漠国の兵として、残り半数はまた別からの兵士だろう。

 人数的には不利だが、狭い出入り口に陣取るアシュリンとミリカンによって完全に抑え込まれていた。


「ミリカン、ここは任せる」

「心得た!」

 元気に返答したミリカンの声が弾んでいることに、ヴェルナーは肩をすくめた。どうやら彼も、思考はしっかりしているもののアシュリン同様に戦場で高揚しているらしい。

「さて……」


 ヴェルナーは村の外周を回って裏からの侵入をするつもりで、戦線から外れた。

 そこで、やや離れて立ち尽くすイレーヌの姿を見た。焦燥感を感じているのだろう。時折目をそらしているが、それでも戦いを見ている。同じ訓練校の仲間であり、肩を並べて戦うはずのアシュリンを見ているのだ。

 ため息を吐き、ヴェルナーはイレーヌの前に立つ。


「殿下……」

「戦いたいか?」

 本心を言えば参加したい、とイレーヌは考えた。そのために訓練をしてきたのだから。

 答えを口に出せないイレーヌに、ヴェルナーは一掴みのプラスティック爆薬を手渡した。

「これを渡しておこう」


「こ、これは……」

 イレーヌも先ほどアシュリンが投擲した爆薬の威力を見ていた。恐る恐る受け取ると、その意味を問うようにヴェルナーの目を見る。二人の身長はあまり変わらない。

「少し物騒だが、お守り代わりに預けておこう。さて、イレーヌ・デュワー」

「はっ!」


「戦闘への参加を許可する。ただし、攻撃するなら敵を殺せ。それができないなら、騎士として戦場に出る機会は二度と無いと思え」

 実際には、ヴェルナーにそんなことを決める権限など無い。無いのだが、実戦でそう評価されたという結果は残る。

「別にいじわるでそう言っているわけじゃないぞ?」


 戸惑っているイレーヌに、ヴェルナーは説明を続けた。

「敵が生きている限り、仲間が不意打ちを受ける可能性が残る。逆に言えば、敵にとっても生きたまま敵に捕らえられた後のことを考えれば、可哀そうでもある」

 特に女性ならわかるだろう、とヴェルナーは片眉をあげた。

「それは……」


 まだ十二歳でも、戦場で女性がどのような目に逢うかくらいは知っている。男でも、先ほどの斥候か、それ以上の苦痛を味わう可能性があるのだ。この世界に捕虜を暴行しないための条約など存在しない。

「民衆のためとかそういうのはとりあえずどうでも良い。まずは自分と仲間に対する責任を果たす覚悟が自分にあるか考えろ」


 一度背を向けたヴェルナーは、戸惑っているイレーヌに振り向いた。

「あ、その粘土はお前の雷撃でも爆発するから、気をつけろよ?」

「うええっ!?」

 思わず落としかけたプラスティック爆薬を、イレーヌはあわててキャッチした。落としても爆発するものではないが、そんな事を彼女が知る由もない。


 若さに似合わぬ豊満な胸へ抱きしめるように爆薬を抱えてイレーヌがため息をついたとき、すでにヴェルナーは走り去っていた。


●○●


 柵に沿って村を半周したヴェルナーは、そこに裏口のような小さな扉を見つけた。

 見張りの兵士が二人立っていたが、表で始まった戦いの音を聞いてそわそわとしている。

「二人だけか」

 これといった遮蔽物が見当たらないので、ヴェルナーは駆けている勢いそのままに兵士たちへと向かう。


 右手に握りこんだナイフを投げると、ドカッと音を立てて兵士の首筋に突き立つ。

 声も出せずに死んだのは手前の兵士だ。その身体が倒れる前に、ヴェルナーは思い切り肩からぶつかり、残った兵士ごと倒れた。

「うわっ!」

 何が起きたかわからないまま、仲間の死体の下敷きになった兵士が痛みにうめきながら目を開くと、味方の死に顔の向こうに、少年が見下ろす顔が見える。


「なにが……」

「静かに」

 ぬるりとした感触が、兵士の首に当たっていた。

 ナイフが引き抜かれた首から流れる血の熱さと刃の冷たさが同時に感じられる。

「お前はどこの誰だ?」


「……この村の自警団だ」

「はあ……お前は立派だよ」

 話す気が無いらしいと判断し、首筋にナイフを滑らせて殺したヴェルナーは、ハンカチを取り出してナイフの血を拭った。

 そして兵士たちの持ち物を探ったが、財布にはスド砂漠国の硬貨はない。この国ラングミュアの金だ。


「二国の兵士がいるのか?」

 だが、ラングミュアの兵士ではなく、国内の貴族に仕える私兵だろう。装備が若干違っているのだ。

「仕方ない。村の連中に聞くか」

 扉は外からカギがかかっていたが、ナイフでカギの部分ごと抉り取った。


 そっと中の様子をうかがうと、内側に見張りの兵士は配置されていない。

 いくつか平屋の家が立ち並ぶ向こうに広場があり、兵士たちが全員出入り口に向かって殺到している様子を背後から確認できた。

 指揮官と思われる人物が二人いて、左右それぞれの兵士たちに最後尾から檄を飛ばしている。


 見つからないように建物に隠れながら探っていくと、ひときわ大きな家がある。

 村長の家だろうか。ドアに耳をあてると、ひそひそと大人数が話している声が聞こえた。しばらく聞き耳を立てていたが、会話の内容までは聞こえなかった。

 だが、この時点でヴェルナーは状況を整理してしまっていた。

「中にいる連中に接触するのは後で良いな。まずはミリカンたちと戦っている連中を片付けよう」


 決まったなら行動は素早く。

 ヴェルナーはプラスティック爆薬を生み出し、爆破場所を見極めようと建物の陰から敵の姿を確認する。

 だが、敵も動いていた。

「……減っている?」


 ミリカンとアシュリンの奮闘で敵兵が減っているのは間違いないが、先ほど見たときよりも半数にまで減るのは異常だ。

「……くそっ! 分けたか!」

 南向きの村の入り口に対し、少し迷って西側へと向かったヴェルナーは、梯子を使って柵を乗り越えようとする兵士の姿を見つけた。


 誰かが迫ってくることに兵士たちは急いで迎撃の準備をしたが、その表情は相手が少年であることに安堵しているようだ。

「ふん。見た目で油断してたら、とんでもない目に逢うぞ」

 用意していたプラスティック爆弾を投げつけると、一人の兵士が被っている兜に命中して、張り付いた。


 一瞬騒然となった兵士たちは、それが粘土だと思ったのだろう、再び緩んだ表情に戻ったのだが、その瞬間には起爆している。

 全部で七名。その一撃で半数が死に、残りも怪我を負った。動けるのは二人だけだ。

「何者だ!」

「侵入されたのか!」

 口々に言いながら剣を抜き、二人同時にヴェルナーへと襲い掛かってくる。


 ナイフを抜いたヴェルナーは、リーチの長い両手剣に対して前に出る事を選んだ。

「おのれ!」

 一人が振りかぶった所で懐に入り、外側から膝を踏みつける。

 膝を突かされた兵士の首はヴェルナーがナイフを当てるのに丁度良い高さだ。

「ひいっ……」


 短い悲鳴を最後にして首から血しぶきを上げた兵士を突き飛ばし、もう一人の相手が仲間をやられた怒りに任せて袈裟懸けに剣を振り下ろして来たところにぶつける。

「うっ!?」

 一瞬だけ足が止まった兵士は、死んだ仲間をまたぐようにしてヴェルナーに迫る。

 ヴェルナーは、ナイフを握ったまま左手の指を弾いた。


 その意味がわからなかった兵士だったが、直後に足元の死体、その背中に貼りつけられたプラスティック爆薬が弾けた。

「ぎゃああ!」

「ちょっと少なかったが……まあいい。あんまり多いと俺まで巻き込まれるからな」


 死体に近かった右足を真っ黒にして転げまわる兵士を蹴り上げて動きを止め、ナイフで止めを刺す。

「……参ったね、どうも」

 最初の爆発で重傷を負い、痛みにうめいている兵士たちにも止めを刺しながら、ヴェルナーは苦い顔をした。


 反対側で別のグループが柵を越えているだろうことが、人数から容易に想像できたからだ。

「……主力に圧力をかけて、外から来る連中はファラデーに任せよう」

 位置的に不意打ちを受けるほど彼らも突出していない。あるいは村の周囲を回っている二人の部下が見つける方が早い可能性も高い。


「やれやれ……毎度思うが、想像通りに進む戦いなんて存在しないな」

 こればっかりは、どこの世界でもいつの時代でも同じだ、と苦笑しながら、ヴェルナーはミリカンとアシュリンが対応している敵主力を殲滅するため、新たな爆薬を生み出しながら走り始めた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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