108.ロータルの意地
108話目です。
短くなってしまいましたが、よろしくお願いいたします。
タイミングが全てだ、とロータルは隊員たちと共に草むらに伏せた状態で敵を待っていた。
国境を越えた大軍に大半の火薬とヴェルナーの爆薬を使った攻撃を仕掛けて壊滅状態に陥れ、そこへオトマイアーの軍が到着する。
その背後からは救国教の勢力が迫っていることも確認している。
救国教残党の勢力は、いくばくかは王都にとどまったが、ほとんどの軍勢に王都でも新たに参加者を増やし、帝国に対する抗議を叫びながら国境方面へと向かっていた。
熱狂はすでに、血を見るまでは収まりそうもないほどに加熱している。
人々が求めているのは聖国の安定だが、明確な指導者を持たない烏合の衆はとにかく前へと進みながら、狂乱の渦を生み出していた。
「指揮官がいないということは、そういうことだ」
「一般の民衆だからではありませんか?」
状況報告を聞いたロータルの呟きに、隊員の一人が疑問を感じたらしい。
「多くが一般の民衆でも、優秀な指揮官がいれば組織的に動ける。戦いは準備や仕込みでほぼ決まるから、たとえ兵士でなくとも罠を仕掛けるだけの人員がいれば、予定された戦いは勝てる」
王からの受け売りだが、とロータルは笑った。
「さあ、救国教の勢力は最早誰にもコントロールできない。私たちにやれることをやって、さっさと逃げよう。生き残るために」
ロータルは国境方面からやってきた軍隊を見ていた。
見た感じでは五百名はいるが、ロータルは顔を顰めた。
「……国境からの報告では、一千名を超える人数だという話じゃなかったか?」
「見間違いでしょうか。国境に最初からいる警備の兵もいるはずですし」
帝国の主な戦術は、人の数で暴力的に押し切る戦い方だ。特に今回は目標がオトマイアーの身柄であるはずで、部隊を分ける必要はないはずだった。
「うぬ……」
ロータルは迷った。
帝国の軍勢を一部だけ倒しても、万一主力が後から来るのであれば最大の打撃を与える機会を逃すことになる。
しかし、もし迫っているのが本隊であれば、見逃してしまえば王の計画は全て狂ってしまうことになる。
「どうしましょう……」
隊員が問うと、歯を食いしばっていたロータルは小さく答えた。
「……待つ」
敵状がが確認できるまで待って、それから行動をする。ロータルはそうきめると、全員にこの場での待機を命じ、自らはより敵に近い位置へ移動を開始した。
「待ってください。危険ですよ」
「危険は承知だ。だが、近くで誰かが確認しないといけない。それに、いざとなれば私だけが緊急着火できる。……待機して、爆発が見えたら即座に撤退。陛下と合流しろ」
「隊長……」
泣きそうな顔をしている隊員に、ロータルは笑って見せた。
「心配するな。私も生きて帰らないと、陛下に怒られるからな」
言い残すと、ロータルはそっと匍匐で異動を開始した。
この動きもヴェルナーから直接教わった方法だ。草むらを静かに移動するファラデーたちをまるで見つけられなかった、最初の直接指導の時を思い出す。
「ここで失敗はできない」
固い意思が、ロータルの四肢をしなやかに、力強く動かしていた。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。
色々と忙しい時期にあり、今回のような短い更新やお休みが増えるかと思いますが、
しっかりと完結まで書き上げますので、生暖かくお見守りいただければ幸いです。