(5)
恵理が見えなくなった。
それは突然だった。
でもそこにいた。
近くにいつでもいた。
見えずとも、そこにいた。
空気で感じ取れた。
だが今は違う。
恵理はいない。
気配もない。
初めからそこにいなかったように、どこにもいない。
携帯に何度も連絡した。
出ない。
出ない。
出ない。
どこに、いるんだ。
恵理の両親は、すでに二人とも他界している。
だから、実家に帰っているという選択肢はない。
友達の家か。
恵理の友達。
ダレだ? 誰がいた?
私は。
私は、何も知らない。
恵理の、何も知らないのか。
警察に言うべきかと迷った。
“しばらく、家を離れます”
しばらく。
と言う事は、いずれは帰ってくる。もしくは、帰る条件が揃えば帰るという事なのだろうか。
様々な思考が頭を巡る。
思い返せば、思い当たる節があまりにもありすぎる。
恵理の扱い。
帰れば晩御飯が準備され、風呂が沸いていて、布団が敷かれている。
当たり前にあった生活。
気付けば感謝を忘れた夫婦生活。
それが当たり前で、当たり前すぎて。何も見えなくなっていた。
挙句、七海とのやり取り。
浮気心などではないと誓って言えるが、それでも自分の行いを他人が見れば十分に浮気だろう。
一つ一つの何とも思っていなかった事実が、恵理にとってどれだけの刃になっていたか。
考えた事すらなかった。
こんなにも、家は広くて、静かだったのか。
『奥さんを大事にしなさい、浮気者!』
――七海、手遅れだったよ。
今尋ねれば君はなんて答えるだろう。
「こんな俺の、どこがいいんだ」
きっといつもの答えは、もう返ってこないのだろう。