(4)
近すぎると分からなくなったり、気付かなったりするものがある。
「俺のどこがいいんだ?」
付き合っていた時、結婚してまもなくの頃。
私は何度もその疑問を恵理に投げかけた。
好意を持ってくれている事は、空気だけでも十分に感じ取れた。だが、肝心の根拠が見えなかった。
不安だったわけではない。単純に理解出来なかったのだ。
決して男前な顔立ちではないし、これといった特技があるわけでもない。性格も悪くはないかもしれないが、良いと胸を張れるほどのものでもない。
恵理が横にいてくれる事が嬉しくありながら、不思議でならなかった。
「朝人君って所」
決まって恵理は幸せそうな笑顔でそう答えた。その度私は困り笑顔でだからそれが何かって聞いてるのにと返す。しかしその先に答えはない。
けど、それは照れ隠しでもなんでもなく、それが彼女にとっての本当の答えなのだろう。
そう自分を納得させてから、私は二度とこの質問はしなくなった。
私が私である事。
「……恵理?」
休日の朝。
私は、久しぶりに妻を呼んだ。
朝のおはようがない。
恵理の気配がない。
「ん?」
テーブルの上に小さなメモ紙が置かれていた。
“しばらく、家を離れます”
全身の血から、温度が消えていった。