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(2)

 ごくごく平凡で平均的な結婚。

 友人の飲み会の場で知り合い、お互いがお互いを気に入り近付き、二人で会う頻度が増え、当然のように付き合い、当然のように結婚した。

 あまりにも順調に私達は仲を深め、生活を共にすることに何の違和感も持たず人生を共有する事を決めた。

 だが、いつまでも順調は続かない。

 結婚して五年が経った。子供はいない。それもお互いが決めた事だ。

 時間と愛情が比例していたあの頃と違い、一つ屋根の下で生活を続けていくうちに、若い頃に疑う余地もなかった愛情が薄らいでいくのを感じた。

 

 嫌いになったわけではない。別れるつもりも全くない。

 だが、付き合っていた頃と、夫婦となった今との心情の差はあった。

 恋人という感覚は消えていた。

 会話は減っていた。

 あまりちゃんと顔も見なくなっていた。

 あまりにも、そこにいるのが当たり前になりすぎたのだろうか。


 そんな味気ない日々を過ごしていた。

 恵理が今の生活をどう思っているかなんて気にもしなかった。

 そして、それは唐突に訪れた。


「おはよう」


 休日の朝、いつものように投げかけられた言葉。


「おはよ」


 そう返事を返したつもりだった。

 だが、声の場所に恵理はいなかった。


「……恵理?」


 まともに名前を呼んだのは久しぶりだった。

 しかし、そう口にせざるを得なかった。

 恵理がいない。

 恵理が見えない。

 恵理がいると思われる場所に、何かがいるという気配しか分からない、なんとも妙な感覚だけがそこにあった。


朝人あさと君? どうしたの?」


 妻の怪訝な声。

 私は、少し考え、やはり口にした。


「そこに、いるんだよな?」

「え、何言ってるの?」


 恵理は苦笑を漏らしながらそう言った。

 当然の反応だろう。冗談を言っているとでも思っているのだ。しかし冗談にしても、全く面白くない。苦笑にはそんな気持ちが読み取れた。

 

「見えないんだ」

「え?」

「見えないんだよ、君が」


 この時私が思ったのは、恵理が見えない事を悲しむ思いではなく、自分の身に起きた理解不能な現象が、とんでもない病か何かではないかという己が身の心配だった。


 程なくして、その現象が自分だけではなく世界各地で起きているというニュースが流れた。そのニュースを伝えているキャスターの姿も見えなかった時は馬鹿にされているような気持ちもあったが、それが世界の事実だと分かり、私は安心した。


「……見えない」


 恵理がどことなく悲しそうに呟いた事すら、私は気にも留めなかった。


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