動き出す関係
『さっきいたあの子が…ほら…』
『あぁ、真太の…実の息子の…』
『じゃああの子は…?』
『あの子はほら、前の奥さんの連れ子でしょ…』
――――祖父の葬儀の時、火葬場のトイレで聞いてしまった…パパの親族の人達の話。
あの時は誰の話をしているのか、なんて考えもしなかった。
でも…今なら…、嫌でも分かる。
(新太はお母さんとパパの息子で…、私はママと…誰の娘?)
「美琴、おはよ」
「律季…」
真実を聞いてから二日後の朝、登校した美琴に、律季が声をかける。
「―――昨日はどうしたの?風邪?」
「うん…」
心配そうに言う律季に、美琴は顔を伏せて答える。
「顔色悪いよ、保健室付いていこうか?」
律季がそんな美琴を心配そうに言うと、
「大丈夫、一人で行ける…」
美琴は力なく笑って、保健室へと引き返す。
「いや、やっぱり付き添うよ」
「いいって…っ」
律季の差し出した手を、美琴は振り払う。
「あ…ごめ…」
美琴は、そのまま一人で歩き出した。
そんな美琴と律季を離れたところから見ていた新太は、保健室へと向かう。
「美琴…大丈夫?」
保健室のベッドに横になっていると、しきりのカーテンが開いて、新太が顔を出した。
「新太…」
「昨日…どこ行ってたの?」
「―――…」
美琴は何も言わず、新太に背を向けるように寝返りを打つ。
――――昨日、いつものように家を出たはずなのに…
美琴は学校を無断欠席した。
学校から連絡が来て、舞子は咄嗟に“風邪”で休むと言った。
「家、出てくなんて…言わないよね?」
「―――…」
「美琴?」
美琴は、背中を向けたまま新太の方を向くこともなかった。
(ずっと…ママが迎えに来てくれるって信じてた…)
美琴はずっとグルグル頭の中で同じことを思っていた。
(私を捨てたわけじゃないって…)
―――ママが私と一緒に暮らしたいと思ってくれてる。
(その夢が叶ったはずなのに…)
――――それなのに、どうしてこんなにショックなのだろう。
(私は…どこに帰れば良い?)
――――もう…瀬戸家には居られないの…?
背を向けたままの美琴に、新太はそっと声をかける。
「美琴、どこにも行かないで…」
(新太…?)
美琴は身動きせずに、新太の言葉を黙って聞く。
「俺は、ずっと美琴と一緒に暮らしたい。だから…」
後ろから美琴をそっと抱き締めて、新太が言う。
「どこにも行くなよ…」
美琴の目から、涙が溢れた。
「ふ…ぅっ」
嗚咽が漏れそうになるのを、必死で堪える美琴のうなじに、
新太は、キスをした。
――――美琴に、気付かれないように…そっと。




