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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第一章】
95/250

本当の家族

「あ、おかえり」

美琴は食器を洗いながら仕事帰りの両親に声をかける。

「珍しいね、揃って帰宅なんて」



「美琴、こっちに来て…大事な話があるから」

真太が改まった様子で美琴を食卓の椅子に座るように言う。


「パパ…どしたの?」

半笑いで、美琴は食器洗いを終えた手を拭きながら、

両親と向かい合って座る。



(この座り方は…中学卒業の時と同じだ…。)


新太と美琴は連れ子同士だと聞かされた日のことを思い出しながら、嫌な予感がして…胸がざわつく。



「――――パパの前の奥さん…美琴を生んだママの話、してもいいかな?」

「ママの…話?」

美琴の胸がドキンと音をたてる。


「美琴がまだ二歳の頃、ママは交通事故に遭って…」

真太が静かに話し出す。


「え…死んじゃったの?」

美琴がショックを受けながらその先を急ぐように言う。


「死んでないよ…ただ意識が戻ったのは半年後で…目が覚めたとき…ママは記憶を無くしてしまって…」

真太は言いにくそうに続ける。


(ママは…生きてた…でも…)

「記憶って…じゃあ私のことは…」


「うん。―――混乱しながらママは離婚したいと言って聞かなかった。だから離婚した。美琴に会わせなかったのも、記憶を喪っているから…会わせられなかった」


(ずっと…捨てられたと思ってた…でも違ったんだ…)

美琴は真太の話を真剣に聞く。


「でも…ママの記憶が戻った。―――美琴と…会いたがってる」

「私も、ママに会いたい…」

美琴は素直に言った。



「美琴…」

そんな美琴に、ずっと黙っていた舞子は涙ぐむ。

「お母さん?」


「美琴は…ママと暮らしたい?」

「お母さん?」

突然の話に、美琴は戸惑い…真太は焦った。

(美琴には、まだその話をするつもりはなかったのに…)


「美琴がそう思うなら…お母さん止めないわ…」

涙を拭いながら、笑顔で言おうとする舞子に、

美琴は益々戸惑った。

「え、なにそれ…ちょっと待ってよ…」


「ママは…美琴と暮らしたいと言ってるんだよ」

真太は観念したように、ため息混じりに言った。



すると、バンッとリビングのドアが乱暴に開けて、新太が入ってきた。

「なんだよそれ、記憶が戻ったからってなんで美琴をうちから奪おうとするんだよっ」


「新太…」

怒りながら言う息子を、真太がなだめようとする。

「美琴のママはな、家族が美琴しかいないんだ…」


「パパ…」

真太に言われて、美琴は複雑な気持ちになる。


「父さんはそれでいいの?美琴は父さんの娘でもあるのに」

新太が真太に言うと、

「そう、だな…」

真太が苦しそうな表情で話し出した。

「―――きちんと話しておこう…お前たちのことも」




「美琴は、パパがママと結婚したとき…すでに一歳だった。」


「え…」

「ママは…シングルマザーだったんだ…」

真太が静かに言う。


「じゃあ…美琴は父さんの子じゃないってこと?…俺と美琴は…異母姉弟じゃない?」

新太が困惑しながら確認する。


「新太…あなたどうして…」

舞子が驚いて新太を見る。

「こないだ聞いちゃったんだ…母さんと父さんが話しているの」

「え、ちょっと待ってよ…私まだよく理解できてない…」

美琴は、一人状況が分からずに真太に聞く。



「新太は―――パパとお母さんの子供なんだ…」

(新太の実の父親が…パパ?)


「え…わ、私は?」

美琴は、怖くて聞きたくない気持ちもありながら、真太に聞く。


「美琴は…ママと…ママが好きだった人との…」

真太は言葉を濁す。


「―――じゃあ…要するに…」

美琴は、全てを察して黙り込む。



(私だけが…この家の家族(にんげん)じゃなかったってこと…)



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