美緒の恋物語(Ⅳ)
―――ジョージには…自分の家族の話や日本での過去は、したことがなかった。
私には元々家族なんていなかったし、
唯一の存在だった真太には真太の父親の直太に、
“別れろ”と迫られて…言われた通り高校を卒業してすぐに…真太の前から姿を消した。
それから必死に働いて…働いて働いて、お金を貯めた。
誰も自分のことを知らない国に…行ってみたかった。
過去に触れられないところで…やり直したかったのかもしれない。
「ミオ、今日僕の好きな写真家の開いている個展、一緒に観に行かないか?」
「あ、うん…」
ジョージは、私が本気で“モデルになりたい”と思っていないことを知っているようだった。
全くモデルとしての仕事をせずにふらふらと二ヶ月が経っても、追い出そうともせずに二人でルームシェアの暮らしを続けていた。
――――そしてジョージは、
私が日本での過去に触れたくないのを…
まるで気付いているかのように、気分転換にと休みの日にはどこかに連れ出す。
「――――(英語、だいぶ上達したね)」
個展の写真を見ながら、ジョージが英語で言った。
「あ…Thank You…(ありがとう)」
私は恥ずかしくて、ぎこちなく答える。
「(写真…どれもみんな幸せそうね)」
「(うん、そういうとろこが好きなんだ。僕もそういう写真が撮りたいから)」
ジョージは優しく微笑んで言う。
「ジョージは、これを仕事にするんだもんね?」
私が日本語で言うと、ジョージは少しだけ困ったように、
「あぁ、そうだね…」
と、微笑んだ。
「今日は、おいしい日本食の店に行こう、案内するよ」
個展の帰り、ジョージが珍しく夕御飯を誘ってくれた。
「え…」
「ほら、行こう?」
なぜ…私は彼の手をとったのだろう。
恋人でもないのに、自然に繋がれる手に…私は戸惑った。
彼が私の手を引いてやって来たのは、
『琴』という看板の、日本食屋さんだった。
「俺の母は…『琴里』って名前でね。
――――なんだかこの店に来ると…母の手料理を食べてるような、そんな気分になれるspecialな店なんだ」
ジョージがそんな話をしてくれた。
ジョージの横顔は、
やっぱり年下のような可愛らしさがあって…私は彼に“弟”のような感情をもった。
「実は今日、Birthdayなんだ…」
そしてジョージは、優しく私を見つめて言った。
「ねぇ、ミオ…僕は君が好きだよ。愛してる」
私の目から、涙が頬をつたって落ちた。




