真実を知る前に
「――――美琴の母親の…記憶が戻った」
深夜に仕事から帰ってきた真太が、小声で言った。
舞子は、今まで踏み込めずにいた前妻の話に、
真太のスーツをハンガーにかけようとしていた手が止まる。
「それは…美琴を手放すってこと?」
舞子の声が震える。
『前妻は事故に遭い、五年間の記憶が抜け落ちていて美琴の存在も忘れている。
思い出すまでの間、美琴には何も話さないで欲しい。
そしてもし思い出した時は…
彼女はきっと…娘と暮らしたいと言うだろう…―――。』
真太と結婚する前に聞かされたのはそれだけで、
舞子はそれ以上のことは何も知らなかった。
「向こうは一緒に暮らしたいと言っているんだ」
ネクタイを緩めながらソファーに座り込み、真太が言う。
「そんな…私はあの子を本当に娘のように…」
「舞子、分かってる。それは俺も同じ気持ちだから」
舞子の言葉を遮るように真太が言う。
「貴方は違うでしょう?実の父親なんだから…」
(私は…真太とは違う…)
「いや…違うんだ…」
舞子の言葉を否定する真太に、舞子は困惑した。
「え…真太何言ってるの?」
「美琴は…俺の本当の子供じゃない」
「舞子、ごめん…ずっと黙ってて」
真太が頭を下げる。
舞子はそんな夫を立ったまま見下ろす。
「じゃああの子の父親は…誰なの…」
「俺も…知らないんだ…」
真太の声は、寂しそうで…舞子はそれ以上なにも言えなかった。
(貴方は…知らない男との子供を…前の奥さんのために育ててたの?)




