真太と舞子
「お帰り真太、ちょっと聞いてよ!」
上司との接待から解放され、疲れて帰宅すると、
深夜にも関わらず妻の舞子がハイテンションで出迎えたので、美琴の父、真太は戸惑った。
「ど、どうした舞子?」
「今日知ったんだけどさ、新太に彼女がいるらしいのよ!!」
「へぇ、新太に…」
「リアクション薄っ!」
不満げに舞子が言う。
「いやいや、驚いてるよこれでも…」
自分に似たのか、昔から人見知りで無表情な新太に、
美琴以外に話せる女子がいることすら想像がつかない。
「ホタルちゃんって名前ってことしか分かってないんだけどね――――…」
舞子が嬉しいのか、悲しいのか、興奮しながら話す姿を隣で聞きながら、真太は過去を思い出していた。
最近の新太が自分に似てきたことを思うと、どうしても、もう一人の子供である美琴のことも考えてしまう。
―――最近の美琴は、日を追うごとに実の母親に似てきているということ…。
美琴の姿から、どうしても高校時代の彼女を連想してしまう。
『真太が好き…でもごめん』
離婚をしたいと言いながら…彼女は泣いた。
いつも笑顔で明るい彼女が、初めて見せた…涙。
あのときは…結局彼女の希望を叶えることしか…自分には出来なかった。
「真太、聞いてなかったでしょー?」
舞子の声に真太は我に返る。
「ん?ごめん…ボーッとしてた」
「疲れてるもんね、ごめん…おやすみ」
舞子が気遣って謝ると、寂しそうに寝室に向かう。
「おやすみ、先に寝てて。俺はシャワー浴びてくるから」
舞子の背中を見つめながら、真太は心の中で謝る。
(ごめん…舞子。君にまだ話していないことがあるんだ…)




