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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第一章】
89/250

美緒からの話

「真太…ごめんね呼び出して」

美緒に会うのは、葬儀の時以来だった。

あれから二週間が過ぎたある日、会社の昼休み時間に少し会えないか、と連絡が来た。


――――美緒の声は、いつもの明るさがなくて…真太は、なんとなく覚悟をしていた。


「美緒、こないだはありがとう。親父の葬儀に来てくれて」

真太は、近くの喫茶店に入ると、美緒に話を切り出した。

「それで…今日はどうしたんだ?」


「私…直太おじさんが亡くなる少し前に…記憶が戻ったの…」

コーヒーにミルクと砂糖を入れながら、美緒が話し出す。

その表情は、辛そうだった。


真太は、ドキンと心臓が跳ねた。

(やはり…そういう話か………)


真太は、覚悟をしながら美緒の言葉を待つ。

「今まで美琴を育ててくれて…真太には感謝してもしきれないね…」

美緒の言い方は、完全に“母親”だった。


「美琴は、“俺達”の娘だ。美緒がそんなこと思う必要はないよ」


「でも、美琴は…」

(真太の本当の娘でもないのに…)

美緒は、ジョージを思い出しながら言葉を濁した。


「美緒と俺は夫婦で、美琴は俺達の娘だった。――――母親が事故で寝たきりになっていたんだ、父親である俺が美琴を育てるのは当然だろ?」

そんな美緒を庇うように、真太は優しく言う。


「真太…」

美緒は、涙を堪えながら真太の気持ちに胸がいっぱいになる。

(私は…何度、真太に救われたんだろう…)



「で、言いたいのはそれだけじゃないんだろ?」

真太は、真剣な面持ちで、美緒の本当に言いたいことを引き出す。


「美琴と…暮らしたい」


真太の思った通りの言葉が、美緒の口から伝えられた。

(やっぱり…そう言うと思ってた、いつか記憶が戻ったら君はーーーー)


「美琴に、話したい。本当のこと…全部」

美緒は真太に頼み込むように言う。


「私の家族は…美琴しかいないから」


「美緒…」

「舞子さんにも、なんと言ったら良いのか…」


「え?」

「―――本当は、真太…舞子さんと結婚するはずだったんでしょう?」


「何言ってるんだよ…」

真太は、平静を装って言った。


「―――本当は、直太おじさんから…聞いてた」

(本当は、婚約者がいたこと。ーーー彼女のお腹には、あなたの子供がいること)


真太と結婚する時に…反対していた直太がそう言っていた。

(だから私は…“邪魔者なんだ”と――――。)



無くしていた記憶は、想像以上に…美緒に残酷な現実だった。


(それなのに私は…真太の優しさにつけこんで…結婚した)


「少しだけ…時間が欲しい」

黙っていた真太が、重そうに口を開いた。


「舞子さんのこともあるし、もちろん美琴の気持ちもあるから…大丈夫、私は待つわ…」

美緒は、笑顔をつくって真太に言った。


「美琴にも、私からは言わないから…安心して?」

(言わないんじゃなくて…言えないんだ…。――――今さらどんな顔して“母親”だと名乗る?)



「あぁ…」

真太は、苦々しい顔でコーヒーを飲んだ。


(それでもこれ以上…真太の家族を巻き込んではダメだわ…)

美緒は、美琴が真実を知ったらどうするのか…怖くて真太にその役目を頼んだ。

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