危篤
「蛍…まだ怒ってるの?」
隣を不機嫌そうに歩く彼女に新太が聞く。
「怒ってないの、別に」
その口調は明らかに怒っていた。
「優勝出来なくて、ごめんね?旅行券なくても、旅行なら行こう?」
機嫌を直そうとする新太に、蛍は余計に悲しさが増した。
(それは、蛍のため?それとも…自分のため?)
そのとき、
「一年2組瀬戸新太くんは、至急職員室まで来てください。繰り返します…」
突然、校内放送で新太は呼び出される。
「何だろ?ーーーーごめん、蛍行ってくる…」
新太は、すぐに蛍に背を向けて走り出した。
「新太のばか」
蛍は独り言のように呟いて一人寂しく歩き出す。
「――――ああ、良かったわすぐに来てくれて」
職員室に行くと、先生が新太に言う。
隣には、父親の真太が来ていた。
「父さん…」
「新太、落ち着いて聞いてほしい」
真太が震える声で言う。
「え?」
「お祖父ちゃんが危篤だそうだ」
「―――え?」
(おじいちゃん…?)
「新太、今から一緒に病院まで行けるか?」
「分かった、でも俺、おじいちゃんって今まで会ったことも無かったよね?」
「詳しくは後で話す。とりあえず車に…ーーーー」
職員室を出て、足早に歩き出す真太に、慌てて後を追いながら、新太は携帯電話を取り出す。
「分かった、じゃあ美琴にも…」
「美琴には、言わなくて良い」
真太は、新太の手を止めるように携帯電話に手をかける。
「え、なんで?だってーーーー」
(美琴のおじいちゃんでもあるのに…)
「おじいちゃんは、新太にだけ、会いたいそうだ」
「俺だけ?」
新太は意味が分からず、とりあえず父親の後をついていく。
相馬直太、と書かれた病室に入ると、
祖父は、新太の方を目だけ動かして見る。
「――――お前が…真太の息子か…」
息を苦しそうにしながら、直太が嬉しそうに言う。
「はい、新太です」
新太は、初めて会う祖父に緊張しながら答える。
「新太…」
名前を噛み締めるように、祖父は呟いた。
「最期に…新太に会えて良かった…」
そう言うと、直太はそっと…眠るように目を閉じた。




