ひとつが終わるとひとつが始まる
「終わったねー」
後期の中間試験が終わり、
律季は、解放感でいっぱいになりながら伸びをする。
隣の美琴はそんな彼を見て、自然と笑顔になる。
「うん、これでやっと学祭の準備に取り掛かれるね」
「美琴のクラス、なんだっけ?」
帰りながら、二人が並んで歩く。
「お菓子屋さんだよ、買いに来てね」
「美琴が作るの?」
「うん!」
「じゃあ絶対行く」
美琴の手を繋ぎながら、律季が笑顔で言う。
「うんっ」
繋がれた手を見てから、美琴は律季に嬉しそうに笑った。
こんなに心が満たされたのは…初めてだった。
(今までだってちゃんと…嬉しいとか幸せとか感じていたはずなのに)
これまで自分の感じていたものとは比べ物にならないほどの感情で…、
その気持ちは限界を知ることなく、どんどん溢れてくる。
(こんな自分…知らなかった…)
「ねぇ、美琴?」
「ん?」
幸せを噛み締めている美琴に、律季が話し掛ける。
「新太の家、知ってる?」
「え…なんで?」
(なんて答えたらいいの…?)
いきなりの質問に、美琴は動揺を隠そうとする。
「ちょっと渡し忘れてたものがあって…。美琴、同じ中学だし家とか近いのかなと思って」
(律季にそう言われたら…答えないと不自然だ…)
「――――知らない…よ?」
「そう…」
律季は残念そうに言うと、美琴に笑顔で言う。
「あ、今日俺、家まで送るよ」
「いや、遠いし…大丈夫」
美琴が断ると、律季が手に力を込める。
「もう少し…一緒にいたいし」
「え?」
(それは、私も…そうなんだけど)
――――躊躇う美琴に、律季が寂しそうに笑う。
「ダメなら、良いよ」
「ごめん…今日はちょっと…」
(まだ…心の準備が…)
美琴がうつ向いて言うと、そっと…律季の手が離れる。
「うん…じゃあ俺、ここで」
「うん…また明日ね」
(新太のことを思って黙ってたはずなのに…?)
――――駅からの道を一人で歩きながら、美琴は先程気づいてしまった気持ちに苦しむ。
(だったらもう、打ち明けてしまっても良かったのに…)
『俺はもう、バレても良いと思ってる…』
新太は“姉弟”のことバレても構わないって言っていたことを思い出す。
(それなのに、私が新太と“姉弟”なことを咄嗟に隠したのは…)
『知らない…よ?』
なぜ自分は、あんなことを口走ったのか。それは…。
(自分の為―――…?)




