律季と雫の、はかりごと
「ここで、良いよ」
家の近くまで来て、雫は新太に向き直る。
「そう」
あっさり背中を向けて歩き出す新太に、
「あ、ねぇ…」
雫はつい声をかけた。新太は顔だけ雫に向ける。
「美琴に、彼氏ができるなんてね!」
(分かってた…)
新太は絶句する。
(新太がそういう反応するって………)
「じゃあ、おやすみ」
雫はそう言うと、家へと小走りで帰る。
(だから…言わずにいられなかった…)
玄関のドアを後ろ手で閉めると、雫はドアにもたれ掛かる。
(新太は、いくら想っても美琴とは結ばれないんだよ…)
「もう、諦めてよ…」
雫の言葉は、玄関に落ちて…消えた。
『美琴に、彼氏が出来るなんてね!』
(――――木下今…なんて言った?)
帰り道を歩きながら、新太は必死に考える。
『――――俺たちは…一緒に住んでるんだ』
(確かに今日、律季に俺は言ったはず…。それなのに…)
律季には、そんな話どうでも良かったのか?
―――それとも信じなかった?
でも…今日、告白したのなら…逆効果だったのか?
『私…律季のこと、好きになったみたい…』
あの日照れながら笑う美琴を思い出す。
(――――それとも…美琴から?)
「あ、お帰り新太!ありがとね」
美琴が笑顔で玄関まで出迎える。
「―――美琴、律季と付き合ってるの?」
(嘘だと言ってよ…美琴…)
祈るような思いで、新太は美琴を見つめる。
「うん、実は…」
美琴は照れ笑いをしながらうつ向く。
(…………嫌だ…美琴、そんな顔しないで?)
新太は切なくて苦しくなる。息をするのもしんどい。
「でもね、新太!私は新太のことだってちゃんと想ってるからね」
美琴は顔を上げて、新太に言う。
「――――…」
うつ向いたまま階段を上りながら、新太は胸を押さえる。
(俺が欲しいのは…そんな言葉じゃないよ…)
自分の部屋に籠ると、新太は顔を覆う。
(こんな日が来るなら…嘘なんてつかなきゃ良かったのに…)




