雫と新太
「え、木下じゃん」
家に帰ってきて靴を脱いでいるところに、
二階から降りてきた美琴と雫に気がついて新太は言う。
「…久しぶりだね、新太」
雫が困ったように微笑んで、言葉を交わす。
「ちょっと新太、雫を家まで送ってあげてよ」
美琴が新太に言うと、新太が美琴を見ずに言う。
「は?…俺、今帰ってきたとこなんだけど?」
「美琴、私は大丈夫だから」
新太が不機嫌そうに言うのを見て、雫が遠慮する。
「いやいやダメだよ!女の子一人で、夜道歩かせるなんて…」
美琴が雫に言っても、雫は素早く靴を履いて玄関のドアを開ける。
「じゃあまたね、美琴!」
「あ…雫…」
美琴が引き留めようと声をかけるのと、玄関の扉が閉じるのは同時だった。
新太は、美琴の表情をチラッと見て、ため息をつくと家を飛び出した。
(なんで…俺は…)
「木下…っ」
前を歩いていた雫に追い付いて、新太は並んで歩く。
「新太…どしたの?」
隣を歩き出した新太にドキドキしながら雫が聞く。
(まさか、来てくれるなんて…)
「送ってく、家の近くまで」
「え、…良いよ」
照れながら手を振る雫に、新太が言う。
「良くない、美琴が心配するから」
(美琴のあの表情…マジで反則だ…)
美琴が寂しそうにうつ向いている横顔を思い出しながら、新太は言う。
「あ、そっか…」
雫は、新太が追いかけてきてくれたのは、
“雫”ではなく“美琴”の為だったことに胸が苦しくなりながらも納得する。
「なんで笑ってんの?」
新太が雫がクスッと笑ったのを見て、怪訝な顔をして尋ねる。
「新太…変わってないなーと思って」
前を向いて雫が言う。
「何より“美琴”優先するところ」
「――――てか、なんでまた美琴と“友達”なってるの?」
新太が雫を見ながら質問する。
「美琴、高校に入ってから女友達作ってないんだけど?」
「うん、聞いた…」
雫は責められるのは仕方がないと思った。
自分のせいだと…雫も思った。
でも…それを好きな人に言われるのが、こんなにキツイなんて思っていなかった。
「今度、美琴を裏切るようなことしたら俺許さないから」
涙を溜めてグッと泣くのを我慢している雫の隣で、
新太は容赦なく低い声で言った。
(変わってないのは…私も一緒だ…)
雫は瞼を擦りながら、自分を嘲笑うように笑う。
「裏切らないよ、大丈夫…」
(こうしてまた、新太の近くにいたいから…)




