美琴の気持ち
「美琴に、彼氏ができるなんてねー」
雫が、驚きながら言う。
「やめてよ、なんか彼氏って…」
美琴はくすぐったい気持ちになって、照れる。
(自分が、恋をするなんて…全く想定してなかった)
友達として好きだと思っていたはずなのに…
その気持ちは、誰が相手でも…変わることがないと思っていたのに…
気が付いたら律季に惹かれていて、そういう“好き”に変わっていた。
『俺のこと好きになって』
(夏休みに別荘で言われた時も…)
『嘘なんて、ついてないよ』
(友達だと思ってたのにキスされて、裏切られたと思った私が“嘘つき”呼ばわりしたときも…)
『美琴のこと、本気で好きだから…』
『今週末、デートしない?』
(向き合えなくて避けていた私に、声をかけてきた時も…)
――――律季はいつも自分の心の中にズカズカ入り込んできた。
でも美琴は、…それが嫌ではなかった。
まっすぐ気持ちをぶつけてくる律季に美琴は少しずつ…惹かれていった。
初めて、頭で考えずに…純粋に側にいたいと思えた。
「わざわざ、家まで呼び出すから何事かと思ったけど、そういう報告なら、まぁ許す!」
雫が悪戯に笑って、言う。
「なんか、すっごく誰かに聞いて欲しくって」
美琴は、照れながら笑って言う。
その笑顔は今まで見たことがないくらい輝いていて、雫が笑って言う。
「良かったね美琴!―――でもそれノロケっていうんだよ?知ってる?」
「―――あ、ごめん!雫は…」
言いかけて、美琴は一瞬しまったと思った。
(雫は…新太が好きだったんだよね…)
でも…つい聞いてしまった。
「雫は…好きな人とか…出来た?」
(今でも…新太が好きなの…?)
「え?」
美琴が突然そんなことを聞いてくるとは思わず、
雫はドキッとした。
「いや…ほらあの時は私が邪魔してたから…」
(思い出すつもりは無かったのに…自分から話題に出すなんて…バカすぎる…)
『新太のこと弟だと思うならもう一緒にいるのやめたら?』
―――…本当はずっと気になっていた。
あの言葉の裏に隠された…雫の本当の気持ち…。
美琴の言葉に、雫の顔がくもる。
「ごめんね、あの時は…本当に」
「あ、ごめん!そういうつもりで言ったわけじゃないから!――――ごめん、もうその話はやめよ!」
美琴は慌てて、雫に言う。
「こうしてまた話せるようになって…嬉しいんだからさ」
―――それは本当だった。
雫と和解できて…美琴の心は、穏やかになっていた。
「美琴…」
雫が中学時代にした罪を、
美琴はあっさり許してくれたが、罪悪感がゼロになることはなかった。
(―――私は、美琴をクラスの女子に逆らえずに独りにして…あんな酷いことも言ったのに…)
雫が、新太と常に一緒にいる美琴に嫉妬していたのは…事実だった。
――――自分でも抑えきれなかった、どす黒い気持ち…。
美琴はいつも新太と一緒にいて…新太の特別な存在で…。
それが羨ましくて…、美琴の味方でいることができずに、
クラスの女子たちの側についた。
(こんな私をまた…友達だと思ってくれるなんて…)




