彼女の部屋で
「新太?」
蛍の部屋でテスト勉強していても、全く集中できない。
『俺が好きなのは蛍だし、美琴のことは何とも思ってないから安心して?』
(俺はなんで、あんなあからさまな嘘をついたんだろう…)
「ねぇ、新太ってば!」
蛍に袖を掴まれて、新太は蛍の方を見る。
「教えて欲しいって、新太が言ったくせに!―――全然やる気ないじゃん」
さっきから数学の問題集を眺めたまま、新太は手が止まっていた。
「まぁ、蛍も数学得意じゃないけどさ…」
蛍がはにかみながら言う。
「あ、律季に教えて貰えば?あいつ、頭良いし…」
「律季の話はしないで…」
蛍の言葉を遮るように、新太は問題集を見つめたまま言った。
「律季と、喧嘩でもしたの?」
驚きながら、蛍が新太に言う。
「珍しいね、新太がそんな風に…ーーーーっ」
蛍の唇を、新太が強引に塞ぐ。
(聞きたくない、律季の名前…)
「は…っん」
(蛍が好きだった、元彼…)
蛍の吐息が漏れる。
(美琴が初めて…好きになった男の…名前…)
蛍の腕を引いて、ベッドに押し倒すと、新太は蛍の服に手をかけた。
「あ…っ」
『本当ダメだね…弟離れできてなくって…』
(――――ダメじゃないよ美琴…、離れて欲しいなんて俺は思ったことないんだ…)
蛍の身体に触れると…ヒトの温もりがこんなに心地よいとは思わなかった。
(全部…嘘だよ…)
「新太、好き…っ」
新太に抱かれながら、蛍が囁く。
(俺が好きなのは…美琴だけなんだーーーー)




