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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第一章】
68/250

教室での二人

『新太…()めて…』


昨晩の美琴の傷付いた表情(かお)が脳裏に焼き付いて…教室の自分の席から新太は動かない。


「おい、新太っ!次、体育だぞー」

律季が新太の肩をぽんと叩く。


「俺、サボる…」

頬杖をついたまま、窓の外を眺めて新太が力なく言う。


「どうしたよ?―――こないだから新太…」

律季が心配そうに言う。


「いいから、行けよ…っ」

律季の腕を乱暴に払い、新太が言う。


「―――…」

律季は、驚きながらもクラスの男子たちと教室を出た。


「新太、どうしたんだ?」

クラスの男子が心配そうに律季に聞く。


「さぁ?虫の居所が悪かったみたいだね…」


律季は苦笑いで言いながら、考えていた。

(新太…、俺のこと見ようともしなかった…)




教室に誰もいなくなり、新太は一人机に突っ伏した。

(律季に八つ当たりまでして…最低だな、本当ーーー)


「あ…」

声がして、顔を上げると…美琴が廊下から教室を覗いていた。


「新太、どうしたの?」

美琴が新太のクラスに入ってくる。

「―――クラスのみんなは?」


(美琴はいつでも…俺を心配する…)

新太は、窓の外に視線を向ける。


(それは…俺が“弟”だから―――――)


「美琴こそ、何してんの?授業始まってるよ?」

美琴に顔を背けたまま、新太が言う。


「あ、私はサボり!」

美琴は、キッパリ言う。


「私は良いの、授業をサボってもついていけるし!…それより新太は…」


「あぁ、もう…ウザいって!」

新太は美琴の顔を睨み付ける。

「姉貴ぶるの、止めてよ!そういうの、要らないから」


「新太…?」

美琴は、まっすぐに新太を見つめる。


「昨日のことなら忘れて…。俺、蛍と喧嘩して…上手くいってなくて…つい美琴に意地悪しただけだから…」

フイッと顔を背けて、新太は美琴に言う。


「俺が好きなのは蛍だし、美琴のことは何とも思ってないから安心して?」

(こんな嘘で…信じるわけないよな…)

チラッと美琴の顔を窺うと、美琴はうつ向いていた。


「そっ…か」

(先に突き放したのも、…距離を置いたのも私なのに)

美琴の表情は見えなかったけど、新太には声でわかる。



「あ…美琴…」

(何とも思ってないなんて…信じてないよな?)

言いかけて新太は、美琴へと伸ばしかけた手を止める。


「ごめん!私…真に受けてた!本当ダメだね…弟離れできてなくって…」

美琴がパッと顔を上げると、笑顔をつくって言う。


「じゃあ、私クラスに戻るわ!」

手を振りながら美琴は教室を出ていった。


「あ…」

(なんでまた…真に受けてるんだよ?ー――美琴のばか。)

新太はまた、机に突っ伏した。

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