弟の気持ち
「新太…」
その日の夜、新太の部屋に、美琴がノックもせずに入ってきた。
「ビックリするだろ!それに入る前はノックしろっていつも…」
新太は言いかけて、やめた。
美琴が切ない表情で立っていたからだ。
「どうしたの?」
「蛍ちゃんに…勘づかれたかも…」
「はぁ?」
美琴の発言に、新太は驚く。
「今朝は油断してた…まさか同じ車両に新太が乗ってくるとは思わなくて…嬉しくてつい…」
美琴が苦笑いで言う。
「蛍に、何か言われたの?」
新太がそんな美琴を愛おしく思いながら尋ねると、
「ううん、律季に…」
言いながら、美琴が乙女の表情になる。
新太はそんな美琴を苛立ちながら見つめる。
「美琴、今朝同じ車両に新太が乗ってたんだって?」
昼休み、斗亜とご飯を食べているところに律季も入ってきた。
「え…」
美琴は反応に困って固まっていると、
「蛍のやつが、イチャついてたとかって嫉妬してたから、気を付けろよー?」
面白がるように、律季が笑って言った。
律季は完全にガセネタだと思っているようだった―――。
「蛍ちゃん、誤解してるかもね…ごめんね新太…」
美琴が必死で謝る。
「良いけど…別に」
(誤解じゃないし…)
「明日から気を付けるから、本当ごめんね!」
美琴がそう言って部屋を出ていこうとする。
美琴が開きかけた扉を、後ろから新太が片手で閉める。
「―――そんな必死に…美琴は何を守りたいの?」
「何って別に私は…」
新太はいつもと様子が違って…初めて弟を怖く感じて、
扉の方を向いたまま…美琴は固まる。
「俺はもうバレてもいいと思ってる…」
新太の声が耳元で聞こえてくる。
くすぐったくて、美琴は体をすくめる。
「だって美琴は、俺のお姉ちゃんに変わりないから」
「―――…」
(新太…?)
いつもと様子が違って、弟なのに知らない男に迫られているみたいにドキドキする。
「美琴は俺が弟だと…迷惑なの?」
耳元で囁くように新太が切ない声で言う。
「迷惑じゃないよ…そんなわけないじゃん…」
美琴はやっとのことで声を出す。
「新太が幸せになるためには、これが一番だと思ったからーーー」
言いながら新太の方を向いた美琴は、新太に抱きすくめられて声が出なくなる。
「俺の幸せを一番に思うなら…もうやめてよ」
泣きそうな声で、新太が耳元で言う。
「俺はずっと美琴の側にいたい…」
懇願するような声が美琴の心に染みる。
「何言ってるの…新太――――…」
新太の言い方が“弟”ではなく“男”としてに聞こえて、
美琴が必死で笑おうとする。
そんな美琴の唇を、新太が親指でそっとなぞる。
「ねぇ美琴…律季みたいにキスでもしたら…俺のことも好きになってくれる?」
「新太…止めて…」
新太の手を振り払うと、美琴は口を手で覆いながら部屋を出ていった。




