社長と美琴
「ねぇ、美琴ちゃん?」
撮影が終わり帰ろうとしていたところを、美緒が引き止めた。
「はい、何ですか?」
美琴は呼ばれて振り返る。
『あの子は…何も知らないんだ…君と結婚していたことも…だから何も言わないでくれ』
「―――――…」
美緒は、真太に言われたことを思い出して、言おうとしていた言葉を飲み込む。
「社長?」
美琴が首をかしげて美緒を見る。
「あ…、今日の撮影もバッチリだったわねー」
美緒が言いたかったことの代わりに笑顔でそう言うと、美琴が喜んだ。
「ありがとうございます!」
「社長も、元々モデルやってたんですか?」
美琴が質問する。
「え…」
美緒は、その質問に言葉を詰まらせる。
(私は…確か…)
「だって社長、すごく美人だしスタイル良いから…」
美琴が尊敬の眼差しで美緒を見つめる。
「やってないわよ?――――いやぁね、そんな褒めても何もあげないわよー」
慌ててはぐらかしながら、美緒は焦る。
(私は…確か…)
思い出せそうな記憶を…出てきそうで、出てこない記憶を…。
(私は高校を卒業して…アルバイトしてお金を貯めて…確か…アメリカに渡ったわ。)
そこで…自分は何をしていたのか…。
なぜアメリカに行ったのか。
(そこから先がどうしても出てこない…)
美緒は、帰っていく美琴の背中を見つめながら…その背中に誰かの面影を感じていた。
(美琴ちゃん…会えば会うほど―――不思議な子だわ…)




