思い合う、異なる気持ち
「新太…?」
小学生の頃まで住んでいた家の近くの公園に行くと、
新太はそこに居た。
(あの日も…新太はここに居たよね)
一年前を思い出しながら、美琴はここに足を運んでいた。
「美琴…」
新太は驚いたように美琴の姿を見て、すぐに顔を伏せる。
新太が座っていた隣のブランコに、美琴も座る。
「みんな、心配してたよ?連絡つかないって」
美琴は前を向いたまま、新太にそっと話しかける。
「―――…」
新太は、何も言わなかった。
「私、一年前に新太に言ったよね“なんでもかんでも、一緒にしないで”って」
新太は、美琴があの日の話を蒸し返してくると思わず、
美琴を見る。
「クラスの女子たちに、言われたの…“美琴がいると新太が好きでも近付けない”って」
「え…」
明るく笑って言う美琴を、新太はただ見つめることしかできなかった。
「私にとって…ずっと新太は隣にいて当然の人で。でも…周りはそう思ってなくて」
(雫も…新太のことが好きだったなんて…ずっと気づかなくて独占してた)
「美琴…」
新太はあくまで明るく言おうする美琴を、辛そうに見つめる。
(小さい頃から新太の隣にいたかったのは私で、新太の気持ちを考えたことなんて無かった…。)
「私が当然だと思ってたことは、私がただ勝手に思っていただけで。だから私、新太には自分の好きなように生きて欲しくて――――…」
(新太はいつも一緒にいてくれたけど…私がそうさせていたのかもしれないと気付いたの…)
「あの時は、酷いこと言ってごめんね。ずっと謝りたくて」
美琴が苦笑して言う。
「なんで今その話するの?」
新太は、複雑な表情で美琴を見つめる。
(『好きなように生きて欲しい?』そんな事…美琴が言うなよ…)
「だってあの日も、新太居なくなって、帰ってこなくて…見つけたときここに居たじゃん」
美琴が思い出しながら笑う。
「―――でも新太が高校では“姉弟”のこと隠してくれて、私はこれで良かったと思ってる」
「本当に…」
(本当に俺達は姉弟だったのに?)
そう言いかけて、新太は口を閉ざした。
―――新太の想いを知るはずもなく、美琴は頷く。
「うん、新太も彼女ができたし、私も…」
言いかけて一瞬黙り、美琴が照れながら言葉を繋ぐ。
「私も、好きな人が出来たし…」
「え…」
新太は、ショックで言葉が出てこなくなる。
(美琴に…『好きな人』?)
「私…律季のこと、好きになったみたい…」
誰にも言わないでね、と照れながら笑う美琴を見て、
新太は顔を歪ませてうつ向く。
(よりによって、律季…?)
「で、新太はどうしてここに居たの?彼女と喧嘩でもした?」
美琴が、無邪気に顔を覗き込んでくる。
(どうして、美琴と出会ってしまったんだろう…)
「あ、雨降りそう…、帰ろうよ、新太」
美琴がブランコから降りながら言う。
(どうして…美琴が姉なんだろう…)
「美琴が好き…」
新太は立ちあがると、目の前に立っていた美琴を抱き締める。
「…新太?どうしたの?」
美琴は、優しく新太を抱き締め返して言う。
「私も、新太が好きだよ?」
新太は美琴が自分にいつも言う“好き”は、弟に向けて言う言葉だと分かっていた。
(違うよ、美琴――――。俺は…そうじゃなくて…)
「だから、そんな表情で…一人でいないで?」
ポンポンと、あやすように優しく背中に触れる。
「新太には、私がいるんだから――――」
(美琴…俺は…美琴しかいらないんだよ…)
背中に感じるその手の感触を、愛おしい思いで新太は抱き締めていた。




