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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第一章】
58/250

思い合う、異なる気持ち

「新太…?」

小学生の頃まで住んでいた家の近くの公園に行くと、

新太はそこに居た。


(あの日も…新太はここに居たよね)

一年前を思い出しながら、美琴はここに足を運んでいた。


「美琴…」

新太は驚いたように美琴の姿を見て、すぐに顔を伏せる。



新太が座っていた隣のブランコに、美琴も座る。


「みんな、心配してたよ?連絡つかないって」

美琴は前を向いたまま、新太にそっと話しかける。


「―――…」

新太は、何も言わなかった。



「私、一年前に新太に言ったよね“なんでもかんでも、一緒にしないで”って」

新太は、美琴があの日の話を蒸し返してくると思わず、

美琴を見る。


「クラスの女子たちに、言われたの…“美琴(わたし)がいると新太が好きでも近付けない”って」


「え…」

明るく笑って言う美琴を、新太はただ見つめることしかできなかった。



「私にとって…ずっと新太は隣にいて当然の人で。でも…周りはそう思ってなくて」


(雫も…新太のことが好きだったなんて…ずっと気づかなくて独占してた)


「美琴…」

新太はあくまで明るく言おうする美琴を、辛そうに見つめる。


(小さい頃から新太の隣にいたかったのは私で、新太の気持ちを考えたことなんて無かった…。)


「私が当然だと思ってたことは、私がただ勝手に思っていただけで。だから私、新太には自分の好きなように生きて欲しくて――――…」


(新太はいつも一緒にいてくれたけど…私がそうさせていたのかもしれないと気付いたの…)




「あの時は、酷いこと言ってごめんね。ずっと謝りたくて」

美琴が苦笑して言う。



「なんで今その話するの?」

新太は、複雑な表情で美琴を見つめる。

(『好きなように生きて欲しい?』そんな事…美琴が言うなよ…)


「だってあの日も、新太居なくなって、帰ってこなくて…見つけたときここに居たじゃん」

美琴が思い出しながら笑う。


「―――でも新太が高校では“姉弟”のこと隠してくれて、私はこれで良かったと思ってる」


「本当に…」

(本当に俺達は姉弟だったのに?)

そう言いかけて、新太は口を閉ざした。

―――新太の想いを知るはずもなく、美琴は頷く。


「うん、新太も彼女ができたし、私も…」

言いかけて一瞬黙り、美琴が照れながら言葉を繋ぐ。


「私も、好きな人が出来たし…」



「え…」

新太は、ショックで言葉が出てこなくなる。

(美琴に…『好きな人』?)



「私…律季のこと、好きになったみたい…」

誰にも言わないでね、と照れながら笑う美琴を見て、

新太は顔を歪ませてうつ向く。

(よりによって、律季…?)


「で、新太はどうしてここに居たの?彼女と喧嘩でもした?」

美琴が、無邪気に顔を覗き込んでくる。

(どうして、美琴(きみ)と出会ってしまったんだろう…)


「あ、雨降りそう…、帰ろうよ、新太」

美琴がブランコから降りながら言う。

(どうして…美琴が姉なんだろう…)



「美琴が好き…」

新太は立ちあがると、目の前に立っていた美琴を抱き締める。


「…新太?どうしたの?」

美琴は、優しく新太を抱き締め返して言う。

「私も、新太が好きだよ?」


新太は美琴が自分にいつも言う“好き”は、弟に向けて言う言葉だと分かっていた。


(違うよ、美琴――――。俺は…そうじゃなくて…)


「だから、そんな表情で…一人でいないで?」

ポンポンと、あやすように優しく背中に触れる。

「新太には、私がいるんだから――――」


(美琴…俺は…美琴しかいらないんだよ…)


背中に感じるその手の感触を、愛おしい思いで新太は抱き締めていた。





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