回想
(新太…?)
あてもなく走りながら、美琴はちょうど一年前のことを思い出していた。
「新太のこと、どう思ってるの?」
クラスの女子たちになぜか避けられ始め、
仲良しだと思っていた木下雫にまで避けられるようになって、美琴は雫にその理由を尋ねた。
すると、雫にそう聞き返された。
「え、新太は私の弟だよ…」
セーラー服姿の美琴は当然の答えを口にする。
「―――新太のこと弟だと思うなら、もう一緒にいるのやめたら?」
雫は、どこか寂しそうにそう言った。
「…なにそれ、どうして?」
いつも一緒、それが当たり前だった美琴は、
雫が言っている意味がわからずに聞き返す。
「皆、迷惑してるのよ、まだ分からないの?」
雫が黙ったままいると、
雫の周りにいた同じクラスの女子たちが代わりに言う。
「え…」
「美琴がいると、邪魔なのよ」
「お姉ちゃんぶってるの、逆にウザいから!」
「美琴が誰とも付き合わないのは、本当は弟が好きだからなんでしょ?」
「うわー、キモー」
「てか、誰にでも良い顔して告白されて…いい気なもんよね」
「みんな新太のこと好きなのに、美琴のせいで近付けないのよ、分かんないの?」
―――女子たちが、言葉の暴力で美琴を傷付ける。
「美琴?帰ろう?」
新太が何も知らずに、いつも通り美琴を迎えに来て、
女子たちは一斉に教室から居なくなった。
――――雫も、一緒に……。
「うん…」
美琴は、新太に気付かれないように微笑んで言う。
「新太…私ね、高校は私立の南青高校に行くことにした」
帰り道、隣を歩きながら美琴が言う。
「は?なんで?こないだまで一緒に近くのA高に行くって言ってたじゃん」
美琴が突然進路変更をしたことに、新太は驚きながらも不満げに言う。
「新太はA高校に行きなよ、私は南青高校に行くからさ」
「なんでだよ、美琴が南青高に行くなら俺も…」
新太は美琴にいつもどおり合わせようとする。
『新太のこと、弟だと思うなら…もう一緒にいるのやめたら?』
『キモー』
―――雫や、クラスの女子たちに言われた言葉が、美琴を襲う。
「なんでもかんでも、一緒にしないでっ」
美琴は、叫ぶように言い放った。
「え…」
新太は、傷ついたような表情で顔をこわばらせた。
(あの日…私は一度だけ…弟を突き放したんだ。
大事な、弟を…)




