最初で最後のデート
「美琴、こっち!!」
斗亜の姿を見つけて、嬉しそうに美琴が駆け寄る。
「ごめん、待ってた?」
美琴が心配そうに尋ねる。
「いや、たまたま早く着いただけだから」
斗亜は照れながら早口で言う。
―――本当は、嬉しすぎて一時間も前からここの待ち合わせ場所でウロウロしていたが、言えるはずがない。
「妹に誕生日プレゼントなんて、優しいお兄ちゃんなんだねー!」
美琴が隣を歩きながら言う。
「いや、別に…」
デートの口実に使っただけだが、妹の存在に感謝しながら斗亜は歩く。
「中学生なんだよね、何が喜ぶかなぁー」
美琴が真剣に考えて雑貨屋を見ている。
そんな美琴を、斗亜は気付かれないように見つめる。
「私なら、ペンケースとか…あ、これは?」
文房具を手にしながら、斗亜の方を向く。
「―――斗亜、ねぇ、聞いてる?」
「あぁ、うん…聞いてる」
(美琴の側に…ずっと居れるならーーー友達でもいいと思ってた…)
「あ、ちょっと待ってあっちにも可愛いのがある!」
無邪気に前を小走りで行く美琴の後ろを、斗亜は歩いてついていく。
(でも…美琴が好きだから、もう分かってる)
「斗亜、これどぉ?」
笑顔を向ける美琴に、泣きそうな気持ちになりながら斗亜は笑う。
(美琴の側には…ずっと居られないってことーーー)
「―――今日は、ありがとな」
夕方、無事に買い物を終えて、斗亜は美琴にお礼を言う。
「結局、ヘアアクセで…良かったの?」
美琴は不満げに、斗亜の顔を見上げる。
「おぅ」
素っ気なく返事して、斗亜は前を向いまま歩く。
「美琴、俺さ――――…」
(本当は、友達とか思ってなかったんだ…)
斗亜は美琴に意を決してそう言おうとした。
「ん?」
美琴が斗亜を微笑んで見つめる。
その時、斗亜の携帯電話が鳴り、美琴の意識は携帯電話に向く。
「斗亜、電話鳴ってるけど?」
美琴に言われて、斗亜はため息をつくと携帯電話に出る。
「なんだよ、律季…」
(こんなときにまで、邪魔しやがってーーー)
『斗亜、今どこ?』
突然そんなことを聞かれて、斗亜は困惑する。
「なんでお前にそんなこと…」
文句を言おうとした斗亜に、律季が言う。
『新太、知らねぇ?』
「新太?ーーー知るわけねぇだろ、新太がどうした?」
『今日…蛍と約束してたらしいんだけど、来ないらしくて。電話しても出ねぇし、あいつの家知らねぇからちょっと心配になってさ』
「なんだそれ…」
(真面目な新太が彼女との約束をすっぽかす?しかも電話にも出ない…?)
確かに心配だな…と斗亜は思った。
「どうしたの?―――“新太”が何だって?」
携帯電話を耳に当てながら、美琴に視線を向けると、
美琴が心配そうに自分を見上げていた。
『美琴?―――お前今美琴と一緒なのか…』
律季が美琴に気がついて、斗亜は話途中だったが、
ブツッと通話終了ボタンを押して美琴に向き直る。
「いや、蛍が今日新太と約束してたのに連絡つかねぇって律季に連絡してきたらしくて…」
(新太…?)
美琴は、新太に何があったのか考え込む。
「律季が電話しても出ねぇし、家も知らねぇから心配して、俺のとこにも聞いてきた…」
手元の携帯電話に視線を落として、斗亜が言うと、
「ごめん、斗亜!私ここで!また学校でね!」
美琴はダッシュで帰っていってしまった。
「あ…」
引き留めるまもなく、美琴の姿が小さくなっていく。
(言えなかった…結局、何も――――)
美琴に選んでもらったヘアアクセの入った小さな紙袋を見つめて、斗亜はため息をついた。




