本当の家族
「行ってきまーす」
美琴が玄関でサンダルを履きながら言う。
「はーい」
舞子がリビングの掃除をしながら言う。
「美琴、どこに行ったの?」
新太が眠い目をこすりながらリビングに顔を出す。
「え、確か友達と遊ぶとかって言ってたわよ?」
舞子が掃除をしながら答え、新太の方を見る。
「新太、あんた美琴と仲良くやってるわよね?」
「は?なんだよそれ」
新太は、母親の顔を見ずに言う。
「中学までは美琴とずっと一緒だったのに、高校になってから全然じゃない?」
舞子が心配そうに言う。
「当たり前だろ…高校から俺達は“他人”なんだから」
新太がそう言うと、舞子の表情が変わった。
「新太っ」
ヒステリックに叫ぶ母に、新太は驚いて舞子を見る。
「“他人”だなんて、二度と言わないで頂戴!いいわね?」
(本当に“他人”だなんて…思ってないのにーーー)
新太はそう思いながら、しぶしぶ謝る。
「…ごめん」
(姉だと思ってるからこそ…こんなに苦しいのにーーー)
新太は蛍の家に向かう支度をする。
(でも俺と美琴が…義姉弟じゃなかったら…きっと美琴と話すこともなかった…)
「出掛けてくる…」
「え、どこに?」
新太は靴を履くと、行き場所を告げずに玄関の扉に手をかける。
「…行ってきます」
「ちょっと新太…」
舞子が玄関先で引き留めようとしても、新太は振り向かずに歩いて行く。
そんな息子の様子を、舞子はため息をついて見送る。
(言い過ぎたかしら…)
新太の“他人”だと言う発言に、思わず声を荒げてしまったことを舞子は反省した。
(新太が本気で言ったわけじゃないのは、分かっていたのに…)
「おはよう…」
夫の真太が、眠そうな顔で起きてくる。
「おはよう、ってもうお昼になるわよ」
舞子が笑って言うと、
「新太とケンカしたの?二階まで聞こえてきたよ」
真太が舞子に優しく言う。
「―――“他人”だなんて、新太は思ってないよ、大丈夫」
「分かってる…でもあの子たちにまだ言ってないからつい…」
真太の言葉に、舞子があの話題を出す。
「俺はわざわざ言う必要はないと思う…」
―――そう言う真太の顔からは、笑みが消えていた。
「どうして?私は美琴のことだって、同じように愛してるのよ…?」
舞子がむきになって言い返す。
「私が…あの時、貴方との子だって言ったのは、再婚してもらう為じゃないわ…」
「舞子、分かってる…だから落ち着いて?」
舞子をソファーに座らせて、真太も隣に座る。
「―――あなたを…忘れられなかったから…」
舞子の目に涙が浮かぶ。
「うん…」
真太は舞子をそっと抱きしめて頷く。
「じゃあ…どうして新太に…本当の父親だと名乗ってくれないの?」
舞子はずっと抱えていた不満を口にする。
「――――ごめん…、美琴のことを思うと…それは言えない」
真太は、舞子を抱き締めたまま静かに答える。
「美琴も私の娘よ、変わらないわ、何も」
舞子の気持ちは、変わらない。
「たとえ、あなたと前の奥さんとの娘でも…私は美琴のことを本当の娘だとずっと思って育ててきたのよ?だから…」
「俺達は変わらなくても、変わるだろ…美琴の中では」
真太の言葉に、舞子は口をつぐむ。
(本当のことを話したら…美琴の居場所はここになくなる…)
「伝えなくたって、俺達は本当の家族だ。…そうだろ?」
真太に言われて、舞子はそれ以上何も言えなかった。




