オムライス
「ただいま」
「お帰りー」
新太が帰ると、いつも聞こえない声が聞こえてくる。
新太は、自然と笑みを浮かべ、リビングに顔を出す。
「今日はね、オムライスー!」
フライパンからお皿にちょうどオムライスを乗せて、
美琴が笑顔で新太に言う。
「早く着替えておいで」
「母さん、いないの?」
新太がオムライスを食べながら美琴に言う。
「今日は、前の職場の人達と飲み会だってー」
美琴がオムライスを食べながら答える。
「ふーん」
「新太、今日良いことあったの?」
美琴がスプーンを置くと、嬉しそうに新太に尋ねる。
「え?無いよ、何も…」
(むしろ、明日のことを考えると憂鬱な気分だし…)
「なんだ、いつになくご機嫌だからなんか良いことあったのかと思った」
お茶を飲みながら、美琴が言う。
(美琴とこうして、ごはんを食べてるだけで…俺は幸せなんだ)
口には絶対出せない代わりに、目の前に座っている美琴をそっと見つめる。
「ん?なに?」
美琴が視線に気づいて、新太に尋ねる。
「別に?」
新太は自分が笑顔になっていることにも気づかずに、
オムライスを食べる。
(こんな時間が、ずっと…続けば良いのにーーー明日なんて来ることなく、ずっと…)
「そういえば、新太のクラスは学祭なにやるの?」
「俺のクラスは、射的らしいよ。――美琴は?」
「うちは、お菓子やさん」
美琴は楽しそうに笑う。
「私、作る側なんだー、良かったら新太も買いに来てね」
「うん、行く!」「蛍ちゃんと」
新太が美琴の言葉に喜んで返事をするのと、
美琴がそう付け足すのは同時だった。
新太の表情がくもる。
「うん…そだね…」
『明日は、ずっと一緒にいてくれるって…』
『約束して…?』
――――蛍の言葉が脳裏をよぎる。
(美琴…好きだよ)
目の前にいる姉に、新太は心の中で自分の想いを告げる。
(―――ずっと…美琴のことが好きだったよ…)
美琴はオムライスを食べ終わると、お茶を飲みながら、新太の視線に気づく。
目が合うと、美琴が微笑む。
「新太?どした?オムライス冷めちゃうじゃん」
(――――俺の想いは、ずっと変わらないから…ずっと)
「なんでもない」
そう言って新太は残りのオムライスを掻きこんだ。




