三角関係
「え、学祭?」
「そ、通称“はぐみ祭”!」
斗亜は美琴の隣の席に座ると、楽しそうに説明する。
「うちの学校は、中等部と合同で毎年10月末に開かれてるんだ!」
「へぇ、すごい!楽しそう!」
美琴が目を輝かせる。
「クラスの出し物は、くじ引きで決められるんだよ?」
いつのまにか、話に加わりながら律季が美琴の机に頬杖して言う。
律季が目の前に現れると、美琴の頬が赤く染まった。
「美琴、はぐみ祭一緒にまわろーね」
律季が微笑んで美琴に言うと、美琴の顔はますます赤面した。
「それなら斗亜も、一緒に…ね?」
「おう!もちろん!」
美琴が気持ちをごまかすように斗亜のことも誘うと、
斗亜が複雑な気持ちになりながらも、笑顔で応える。
「律季くん」
美琴がモデルの仕事で早退したその日、
律季が斗亜と帰ろうと、斗亜のクラスに顔を出すと、同じ学年の女子たちに5人に囲まれる。
「相馬さんのこと、好きって本当なの?」
一人が、律季に尋ねる。
「うん、本当だよ」
「でも相馬さんは、断ってたよね?」
「この間、“友達”とかって言ってたの聞こえたけど?」
「―――それがどうかした?」
律季は笑顔で聞き返すが、目は笑っていない。
そんな律季に、女子たちは怯みそうになる。
「ちょっと…そんな言い方はないんじゃない?」
「そうだよ、私たちは律季くんが好きで…だから今まで割り切った関係でも良いって思ってたのに…」
「最近全く連絡してくれないし、しても出ないし…」
口々に言う女子たちを、斗亜は律季の隣で唖然としながら見ていた。
(律季、ここまで最低な男だったとは…)
律季が女遊びをしていたのは中等部の頃から知っていたが、
まさか同じ学年にこんなに“そんな関係の女子”がいるとは知らなかった。
(こんなところ、美琴が見たら一瞬で嫌われるのにな…)
今日律季に見せた美琴の表情を思い出しながら、
斗亜は無意識にそんなことを考えていた。
「―――ごめん、そういうのもう要らなくなったんだ」
律季は女子たちを見ずにハッキリと言う。
「はぁ?」
「サイテーっ」
一人が律季の頬に平手打ちをした。
「行こ…」
女子たちは、怒ったり、泣いたりしながら個々に帰っていった。
「いってぇ…」
頬を押さえながら、律季が言う。
「―――自業自得だろ」
斗亜はそんな律季を軽蔑の眼差しで見ながら冷ややかに言う。
「お前さ、美琴にこのこと言うなよ」
「言わねーよ…」
律季が斗亜に言うと、斗亜は苛立ちながら答える。
「言えるわけねーだろ…」
(美琴のあんな顔なんて、見たくねーんだから…)
ふさぎこんでいた美琴が最近ようやくいつも通り笑うようになったのに、それを壊すようなことは斗亜には出来なかった。
(たとえそれが、自分にとって有利な話だとしても…)




