隣のクラス
休み時間に、美琴のクラスに向かった新太は、
斗亜と話していた美琴を見つけて、声をかけるのを諦めた。
(なんだ…仲良くやってんじゃん…)
ホッとしたような安堵と、嫉妬のような気持ちを抱いて、
新太は二人から背を向ける。
「あの…瀬戸くん?」
その時突然、美琴のクラスの女子二人に声をかけられた。
「うちのクラスに用事?」
人見知りな新太は、何となく後ずさる。
「いや…」
学校ではお互い他人のふりをすると決めていたから、
新太は咄嗟に嘘をついた。
「あ…これ、相馬美琴って子の教科書…。拾ったんだけど…渡しといてくれる?」
「あぁ、相馬さんね…」
「渡しとくー」
あからさまに二人の声のトーンが下がる。
(おいおい、美琴…随分嫌われてんなぁー…)
新太が心の中で、美琴に話し掛ける。
当の美琴は、斗亜と楽しそうに話し込んでいる。
(…斗亜も大変だな)
新太は、斗亜に同情しながらも、美琴を見つめる。
そして、自分のクラスに戻ろうとしたとき、
さっきの女子二人の声が聞こえてきた。
「斗亜くんのこと、振ったくせに側にいるなんて」
「相馬マジ図々しいわ…」
「ね、斗亜くんは皆のものだったのに…」
「男好きだよね、マジ」
(だから、女子の友達作れって…言ったのにーーー)
新太は、複雑な想いで教室に戻った。
(まぁ、美琴が鈍感で、助かったけどーーーー)
「おい、新太ー。」
教室に戻ると、クラスの菱川律季が、
新太に話し掛ける。
律季は、誰とでもすぐに打ち解けるタイプの人気者で、
高校から編入してきた“新参者”の新太にとっては、
クラスに馴染みやすくしてくれた、ありがたい存在だった。
「律季、どした?」
「お前さー、斗亜の彼女と知り合いなの?」
律季が、ニヤついて言う。
「え…それってーーー」
(美琴のことか…?)
「ほら、モデルみたいな可愛い子、確か…。」
「―――相馬さんのこと?」
新太は、自分から“答え”を口にした。
「あぁそうだ、相馬さん!確か同じ中学からの編入生同士だよな」
「あ…あぁ、確かに―ー―」
人気者には集まる情報網も広いのか、
どこから二人が同じ中学だという情報が漏れたのか、
新太は内心ドキドキしながら、頷く。
「斗亜にとられる前に紹介してくれたら良かったのになー」
律季が悔しそうに言う。
人気者同士、仲の良い斗亜と律季は、幼馴染みらしく、
何かと律季の話に出てくる。
新太が隣のクラスの斗亜とも仲良くなったのは、
律季の影響だった。
「ーーーでも…二人、付き合ってないんだよな?」
「えっ、マジ?」
新太が律季に言うと、律季は意外だったのか、驚く。
「って、なんで新太がそんな事知ってるんだよ」
律季が何気なく聞いた質問に、新太は一瞬動揺したが、
「ーーーさっき隣のクラスの女子が噂してるの、聞いただけだよ…」
何とか誤魔化す。
(本当は、美琴から聞いた…なんて言えるわけない)
美琴が男子から、どんな目で見られているか…、
高校に入ってから嫌でも気付かされている。
(美琴が可愛いことも…、恋愛が出来ないってことも…俺は誰より知っているーーーー)
新太は、律季と笑顔で話しながら、そんな事を思っていた。




