美琴の本音
「美琴ー、一緒に弁当食お」
昼休みになると、律季が元気よく美琴と斗亜のいる教室へ入ってきた。
「あ、ごめんね!…今日は先約があるから」
急いで仕度をしながら、お弁当を二つ持った美琴は律季の横をすり抜けて教室を出ていった。
「斗亜、なんだよアレ」
「いや、俺も今聞いたし…」
二人は美琴が出ていった教室のドアを見ながら唖然としていた。
「先輩っ!」
屋上にいたすばるに、美琴が声をかける。
「美琴、どうしたの?お昼一緒に食べようなんて」
いつもどおり明るい美琴にホッとしながら、すばるは尋ねる。
「はいこれ、先輩の分」
美琴は、そんなすばるの隣に座りながらお弁当の一つを渡す。
「え?」
戸惑いながらそれを見るすばるに、美琴が笑顔で言う。
「こないだの“お礼”!するって言ってたでしょ?」
「そんなの…いいのに」
すばるは遠慮がちに弁当箱を受け取る。
「ねぇ、先輩…」
お弁当を一口食べ終わったところで、美琴は口を開く。
「私ね、好きな人がいたの」
お弁当箱を見つめながら、美琴は静かに話し出した。
「でも…裏切られて、捨てられた」
美琴が、母親のことを“好きな人”と言ったのは、
どうしても今の家族のことは知られたくなかったからだった。
すばるは、箸を止めて、黙ったまま聞く。
「それが怖くて…恋愛はしないんだってずっと決めてたの」
「そっか」
「だって付き合ったらいつか別れがくるし…好きな人と別れるぐらいならずっと友達のままでいた方が良いと思ってたから」
美琴がそう思うのは、両親の離婚が原因だった。
母親が出ていった理由も、別れた理由も知らされていない。
でも…美琴を置いていった現実は、確かだった。
「美琴の考え方は、“別れる前提”なんだね」
寂しそうな顔ですばるは美琴を見つめる。
「だって、そうじゃん。私たちはまだ高校生で、これからもたくさん出会いとかあるんだし。そしたらずっとお互いを好きでいられるなんてあり得ないでしょ?」
「まぁ、そうかもね。出会いの数だけ別れもあるって言うしね」
すばるは美琴に同調した。
「そしたら、付き合うのって無意味じゃない?」
なぜ別れるのに、付き合うのか。
別れたら仲良くいられなくなるのに、なぜ付き合うのか。
美琴には理解できなかった。
「付き合ってみないと、それは分からないよ」
すばるは、美琴に静かに語りかける。
「俺は…付き合ったこともないから分からないけど」
美琴は、すばるの方を向く。
「でも、好きな人がいるのは、世界が変わって見えるんだ。
色々考え込んだり…ちょっとしたことで幸せを感じたり…一喜一憂が辛くて…楽しかった」
すばるは、夏休みに終った自分の恋を思い出しながら話していた。
好きだった国語の教師が、結婚するという話を夏休みの補習授業で知ったのだった。
「そんな自分の“好きな人”に好きになってもらうのは、
すごく幸せな奇跡だよ。
だから、もしその恋が終わってしまっても、きっとその傷は次の恋の糧になる…と思う。」
――――すばるは、叶わなかった想いを痛感した。
だからこそ、そう思いたかった。
(あの恋は、無意味じゃなかった…)
「それに恋は…しようとして出来るものでもないし、したくなくても気付いたらもうおちてるものだから」
すばるは悪戯な微笑みを浮かべると、美琴にそんなことを言った。
「だから、ちゃんと向き合ってみたら?」
「え?」
何の話をしているのか分からず、美琴は聞き返す。
「居るんでしょ?好きな人…」
すばるに言われて、咄嗟に美琴の頭の中に浮かんだのはーーーー。




