新太の気持ち
「律季と斗亜と、海行くんだって?」
リビングで一人、テレビを見ていた美琴は、
いつのまにか帰宅していた新太に話し掛けられる。
「うわ、びっくりした…。新太ただいまぐらい言ってよー」
跳び跳ねた心臓を押さえながら美琴は、新太を見る。
「美琴、律季のこと避けるの止めたんだ?」
新太は制服のまま、美琴の隣にドカッと座る。
「うん、やめた。だって何もしないって約束したから」
美琴は、何かを思い出しながらテレビの方を向いたまま微笑んで言う。
「律季の気持ちには応えないのに?」
新太は、美琴がいつも通りになったのに、素直に喜べなくてイライラしていた。
(美琴が元に戻ったのに、なんで俺はこんな意地悪な質問してんだよ…)
「応えられないのを承知で律季は近付いてきたんだし、私は友達として律季は好きだから。」
――――そんな新太の気持ちには気付かない美琴は、
自分の素直な気持ちを新太に話す。
「…へぇ」
新太は、素っ気なく言う。
「新太は?」
美琴は、隣に座っている新太の顔を見て尋ねる。
「何?」
「最近、蛍ちゃんと仲良さそうだね、順調なんだ?」
笑顔で美琴が言うと、新太は不貞腐れたようにそっぽを向く。
「…お陰様で」
美琴には気付かれない皮肉を込めて、新太が言う。
「え、なにそれ」
案の定、美琴は意味がわからずに首をかしげる。
(分からなくていいんだ、美琴は――――)
「それより、お腹減った!―――今日母さん残業?」
新太は明るく話を変える。
「うん、らしいよ。カレーライス作ってみた、待ってね温めるから」
美琴は笑顔でキッチンへと向かう。
(――――だって美琴の隣にいるために、必要な嘘だから。)




