すばるの存在
「美琴?」
電話で指定された所に行くと、美琴がうずくまっていた。
すばるの声で、美琴は顔を上げる。
「先輩…ごめんね、こんなところまで」
美琴は笑顔で言うが、いつもの元気は無かった。
「いや、良いけど…どうしたの?」
「―――…うん、ちょっと…ね」
それ以上は触れて欲しくなさそうで、すばるは口を閉じた。
「―――とりあえず、これ着て」
すばるは、羽織っていた長袖のシャツを脱ぐと美琴の肩にかける。
「え…」
「その格好でバイクだと、さすがに寒いと思うから」
薄着だった美琴は、肌にすばるの温もりを感じた。
「ありがと…」
美琴は、そっとシャツに袖を通す。
「じゃあ、後ろ乗って?」
ヘルメットを渡されるも、初めて乗る美琴は付け方が分からない。
「先輩、これって…?」
「ああ、これは…ここに通して…」
近づく先輩の顔が、律季の時をフラッシュバックさせて…、
美琴は咄嗟に先輩を突き飛ばす。
「美琴?」
「あ…ごめんなさい…」
いつもと全く別人の美琴に、すばるは何があったのか、ますます気になった。
「本当に…大丈夫?」
「はい!ありがとうございました!今度お礼します!」
家の近くで降ろしてもらった美琴は、心配させまいと笑顔ですばるに手を振って別れる。
バイクが走り去るのを見届けてから、
家への方向に身体を向けると、少し離れたところで新太が立ち尽くしていた。
「新太、荷物ありがと」
美琴は新太に駆け寄って、荷物を受け取ろうとする。
「今のが…“先輩”?」
美琴が受けとろうとした荷物を、新太はひょいと持ち上げてかわしながら言う。
「そうだよ」
そんな新太に苛っとしながらも美琴は返事を返す。
「何、付き合ってるの?」
新太はストレートに聞いてみた。
「そんなじゃないよ!先輩は…」
美琴は…思い詰めたような表情をしていた。
「―――私の…かけがえのない人なの」
その言葉は、新太の心に突き刺さった。
(――――聞かなきゃ良かった…)




