夜明けの出来心
蛍が目を覚ました時、隣で一緒に寝ていたはずの新太が居なかった。
新太が自分を抱き締めただけで、何もしてこないことに空虚さを感じながらも、
またその先を要求して拒まれたらと思うと何も言えず、
結局抱き締められているだけでも幸せだとなんとか思い直して眠りについたのに…。
昨晩よりも心の中は寂しさが募る。
ガチャ…と部屋のドアを静かに開く音がして、
横になったまま蛍は再び目を閉じた。
新太が部屋に戻ると、何事も無かったかのように蛍のベッドに上がってくる。
ほのかに、甘い香りがした気がした。
(新太、どこにいたの?何してたの…?)
ぎゅっと目を閉じて蛍は心の中で叫ぶ。
蛍との間に少し空間をあけて、新太が隣に横になる。
何となく、見られている気がして蛍は迷った。
「………」
(目を開けて、問いただす?このまま…寝たふりを続ける?)
――――考えて考えて…蛍は、結局怖くて目を開けることが出来なかった。
「美琴、おはよ」
同じ頃、ドアを開けて部屋に入るとベッドから律季の声がした。
「あ、おはよ…律季早いね」
「美琴こそ」
律季は起き上がりながら言う。
二人はまだ寝ている斗亜を起こさないように、
部屋のベランダに出て小声で話す。
「どこ行ってたの?」
「海…」
「―――美琴は、海好きだな、本当」
律季は、どこか寂しそうな美琴の横顔に気が付いていたが、
あえて明るくそう言った。
「…うん」
「美琴と来て、正解だったな」
「律季、ほんとありがとね」
「美琴、なんか眠そう…」
「うん、眠いもん」
二人は、笑いながら話す。
「寝てれば?」
「やだよ、寝顔見られたくないもん」
美琴が嫌そうに言うので、律季は噴き出した。
「なに?」
美琴が首をかしげる。
(見たよ…可愛い寝顔ならーーー)
律季はそんな美琴を微笑んで見つめる。
「美琴…好きなやついないの?」
「え…?」
美琴は、寝顔の話から“好きな人”の話になってあまりの唐突さに戸惑う。
「いないなら、俺のこと好きになってよ…」
律季の微笑む表情を見ても、意図が全く分からず、
美琴は口を開く。
「いやいや私も律季のこと好……」
律季の手が、美琴の頬に伸びたと思ったら、
言いかけていた美琴の口は、あっという間に律季に奪われた。
「俺の言ってるのは、“こういう”好き…だけど?」
いつもと変わらず微笑む律季に…、美琴は自分の口を押さえるのが精一杯だった。
「俺ら、付き合お?」
美琴は真っ赤になったまま無言でベランダから飛び出して、下へと階段をかけ降りた。
(キス…した?今ーーー私…)




