夜明け前
「美琴ー」
自分を呼ぶ声。
「今までごめんね、美琴ーーー」
自分を抱き締める腕の温もり。
(私が触れてもいいの?私は…愛されてる…?)
「さぁ、帰りましょう、私達の家にーーー」
繋がれた手を見ると、自分の手は今とは違ってずいぶん小さくて…。
(待って…待って…私の家はそっちじゃない…)
目を覚ますと、変な汗をかいて心臓がバクバクと騒がしい。
美琴は、自分が夢から覚めたいと願って目を覚ましたんだとすぐに思い出した。
(なんか…変な夢だったな…――――)
真っ暗な部屋で、床からイビキが聞こえている。
(あ…そっか…寝ちゃったんだ…)
床で寝ている斗亜を踏まないように、そっとベッドから起きて下に降りると、不思議と足が海へと向かう。
「新太…」
砂浜へと降りる階段に、見慣れた背中が見えて驚いた。
美琴の声に、座っていた新太がゆっくり振り向き、目を見開く。
「幻聴かと思った…」
新太が驚いたまま呟く。
美琴は少し笑って隣に座りながら新太に言う。
「寝れないの?」
「美琴は?」
「今、変な夢見て、起きたのーーー」
「そっか…」
お互い何となく押し黙る。
新太は抱き締めたまま、蛍が寝たのを確認してから部屋を出た。
もちろん抱くことはなく、だ。
自分が決めたことなのに、一線を越える勇気がない。
新太には、蛍と同じベッドで寝ることも、躊躇われた。
「新太の…本当のお父さんって…知ってる?」
美琴が海を見つめたまま、新太に突然そんなことを尋ねる。
新太は、今まで一度も聞かれなかった“前の家族”について、美琴が触れてきたことに驚いた。
「知らない…だって俺が小さい頃の話は母さんしないから……シングルマザーだったらしいけど…。」
「そっか…」
「美琴、なんでそんな過去聞くの?」
「私は…誰のお腹から生まれたのかなって…たまに思うの」
「え…?」
美琴の言葉は、新太には衝撃的だった。
(そんなこと…考えたこともなかった…)
「新太は、産んで育ててくれてるお母さんがいる。私もさ、お母さんには同じように育てて貰ってるけど…でも…同じお腹から産まれてきた訳じゃないじゃない?」
美琴の言う通りだったから、新太には何も言えなかった。
「自分は、どうして産まれてきたのかな…本当は望まれてなかった―――…」
「美琴っ、それ以上言ったら俺怒るからな…」
美琴の言葉を、新太が静かに…低い声で遮るように止める。
「美琴が望まれてないなんて、あり得ないから。そんなこと言うな!父さんだって、母さんだって美琴をちゃんと思ってるし、俺だってーーー!」
新太は、喋っていると自分の目頭が熱くなり、黙る。
(かっこわる…俺、なんで泣いてんだよ…)
「新太…ごめん、ありがと…」
美琴は、そんな新太に気づいてわざと顔を見ずに言う。
「何だろ、急にネガティブになっちゃって…もう言わないから」
美琴が無理して微笑む。
気がつけば、辺りが明るくなり始めていて、太陽が上がってくる気配がした――――。
「戻ろう…」
「そだね」
二人は立ち上がり、別荘へと戻った。




