花火
夜になると辺りが静まり返っている分、波の音がよく聞こえてくる。
「やっぱり夏は、花火でしょー」
「だねっ!!」
律季が別荘から持ってきた、ろうそくと手持ち花火を見せると、夕食後全員で花火大会をすることになった。
美琴は、嬉しそうに律季から手持ち花火をもらう。
そんな姿を…斗亜は見つめていた。
(美琴がいつも通りになって良かった…でも)
だけど自分の心のなかに、腑に落ちない“何か”を感じていた。
「あれ、風強いからろうそくに火つかないなー」
律季がライターで着けようとしても、すぐに風で消されてしまう。
「ダメ…?」
隣にしゃがみこんだ美琴が両手でろうそくを囲い、風を防ごうとする。
「あ、ありがと」
律季が火を着けようとしながら美琴にお礼を言う。
「うん」
二人の顔が息遣いも感じるほど近づくーーー。
律季は心臓が高鳴っていることに気が付いた。
(なんで俺、こんなドキドキしてんだよ…)
動揺して、うまくライターを使えない。
「じゃあさ、直接法でいきますか!」
美琴が言うと、律季に手持ち花火を差し出す。
「律季、花火に火を着けて!皆で絶やさないようにやろ!」
やがて美琴の手持ち花火に火が着き、
それを律季と斗亜の持っている花火に近付ける。
二人の花火にも火が着き、キレイな光を放つ。
「花火って…綺麗だよね」
美琴の声に気づき、新太は少し離れた所から振り返る。
美琴の持っていた花火は、消えてしまっていた。
「ほら、新太!俺のももうすぐ消えるから!!」
「あ、ごめん…」
斗亜が花火を近付けてきて、新太は自分の手元に視線を戻す。
『花火って…綺麗だよね』
美琴の言葉が頭から離れない。
切ない表情をして、消えていく花火を見つめる美琴は…、大人びて見えた。
(美琴…どうしたんだろう…)
新太は心配になってもう一度チラッと美琴を振り返る。
「あははっ、斗亜危ないって!!振り回さないでよっ」
「ほら、律季!」
「危ねぇな、斗亜覚えてろよー」
三人が楽しそうに花火をしている姿を見て、
新太はすぐに手元の花火に視線を戻した。
(いつもの美琴だな…)
消えた花火をバケツに入れると、プシュッと小さく音を立てて花火が完全に消える。
「新太、はい」
蛍が新しい花火を二本、新太に手渡す。
「ありがと」
「楽しいね…花火」
「うん」
蛍と新太は、三人の騒ぐ声を聞きながら静かに話す。
「新太とこうして思い出作れて、蛍幸せだよ」
蛍が石段に座りながら、花火の光を見つめて言う。
「蛍…」
蛍の気持ちはいつだって自分に100%向けられている。
嬉しいはずなのに…新太は少しだけ、心苦しさも感じていた。
「俺も…幸せだよ」
新太も花火の光を見つめて言うと、すぐに光は消えた…。




