美琴と蛍
「美琴のビキニ、ヤバすぎだろ…」
「俺的には、あのポニーテールが良いっ!…可愛すぎ」
「斗亜も、律季も、見すぎ…」
新太も、斗亜と律季にそう言いながらもチラッと美琴を見る。
男たち三人は、浜辺にバーベキューセットを準備しながら、視線は美琴に釘付けになっていた。
美琴は男たちとは少し離れた水道のある場所で、蛍と一緒にバーベキューに使う野菜の準備をしていた。
蛍は、幼児体型なのを気にしてか、水着の上にキャミソールワンピースを着ていたが、美琴は白地に花柄のバンドゥビキニを惜しげもなく見せている。
夏の日差しが、美琴を一際輝かせていた。
「美琴ちゃん、料理も出来るのね…」
男たちの視線に気付いた蛍は、軽やかに野菜を切る美琴にますます嫉妬しながら話しかける。
「ん?まぁ、お母さんも働いててたまに夕御飯作ってるからねー」
包丁を持つ手を止めることなく、美琴が答える。
「へぇ。―――で、美琴ちゃんは斗亜と律季のどっちが本命なわけ?」
美琴が切った野菜を皿に並べながら、蛍が尋ねる。
「…え?なにそれ」
美琴の手が止まり、トントンという包丁のリズムが止む。
「ウソでしょ?まさか…どっちでもないの?」
蛍は愕然として言う。
「噂通りの男好きなのね…」
「私はただ、友達として仲良くしたいだけだよ。女友達より男友達の方が付き合いやすいから。ただそれだけ」
美琴は蛍をまっすぐ見つめて言い返す。
「それが“男好き”だって言うなら、それでも構わないけど」
(この子とは、絶対仲良くなれないわ…)
美琴と蛍は、同時に同じことを思っていた。
「火、つけたよ美琴!」
「リョーカイ」
ちょうど斗亜が声をかけに来て、美琴は野菜を持って蛍から離れる。
「蛍?どうした?」
美琴をじっと見つめる蛍の表情が険しくて、
斗亜と一緒に声をかけに来た新太が心配そうに顔を覗きこむ。
「私…ああいう子本当無理だわ…」
蛍は新太に低い声で呟く。
「どうして男って、あんな女に引っ掛かるのかしら…」
(斗亜も律季も、マジで見る目ないわ…まぁ蛍には新太がいるから良いけど…―――)
そう思いながら、顔をあげて目の前にいる新太を見ると、
新太の視線は…美琴と斗亜の方を向いていた。
「新太…?」
「ん?」
名前を呼びかけると、新太の視線は蛍に向く。
「今、美琴ちゃん見てた?」
「見てないよ…」
新太が蛍に言いながら、優しく頭をぽんぽんと撫でる。
「蛍は心配症だな」
新太が微笑んで言う。
蛍は…、新太が否定すると分かっていて聞いた。
――――否定して欲しくてわざと聞いたのだと、頭を撫でられながら気付いた。
いつも、妙に勘が鋭くて…、男にうざがられるほど心配症な自分の悪い癖。
他に好きな人がいると感じて、一度新太に別れを告げたとき、
言われた言葉が脳裏をよぎる。
『ごめん、蛍…。俺、蛍のこと大事にするから…頼むから別れるなんて言わないでよ…』
あのとき感じた…新太の必死な気持ちは―――。
『俺、変わるから…ちゃんと…』
あのとき言った、“本当の意味”は―――。
(やっぱり蛍のためなんかじゃなくて…?)
頭の中で、出てきそうな答えを…あわてて蛍は停止する。
(考えたらダメだ…そしたらまた私は…きっと泣いてしまう)
能天気な美琴を睨みながら、蛍は新太に抱き付いた…。
(新太は、どこにも行かせない…。蛍のものなんだから)




