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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第四章】
248/250

伝える言葉

「新太」


その日の夜、美琴は勇気を出して、新太の部屋にノックしてから入る。


ドアを開けると、新太が美琴の横をすり抜けて部屋から出ていこうとした。


「待ってよ新太」

美琴が新太のシャツを掴んで引き留める。


「こないだの、話をさせてよーーーー」

「聞きたくないって…」

新太がかぶせるように言う。


美琴が切なそうに新太を見つめて言う。

「新太、もう私のこと嫌いになっちゃった?」


「は?」

美琴の言葉に、新太は弾かれたように振り返り、美琴の顔を見る。


「私は…新太が好きだよ」


美琴が、泣くのをこらえて、必死に微笑んで言う。


「大学のこと、ずっと黙っててごめん。でも、騙してたとかじゃないの。新太の受験に響かないか…心配で言えなかった」


(分かってる…)

新太は心の中で言葉を返す。


「新太のことだから、きっとやる気が無くなるんじゃないかと…思って。」


「――――…」


「でも、それで余計に傷付けたならごめん…」



「もういい…よ」


新太は、美琴の見透かしたような言葉に、敵わないな…と思わず笑ってしまった。


「俺も…いつも余裕なくなってごめんね」



「新太…」

新太とすんなりと和解できて、美琴はホッとする。


そして、新太に微笑んで言う。


「卒業式が済んだら、私アメリカに発つよ」


「え…」


新太は、美琴とのタイムリミットを知り、絶句する。



「だから行く前に仲直りできて、よかっ―――」


美琴が明るく言いかけたところを、新太がギュッと抱き締めた。


(本当に敵わないんだよな…いつも俺の前を行く君にはー―――)




「新太…?」

きつく抱き締められながら、美琴が新太を見上げて言う。


「新太、泣かないで?――――“あの約束”も、ちょっと先延ばしになるだけだから」



(“あの約束”?)


「?」

新太がそっと腕の力を抜く。



美琴は一瞬背伸びして、新太の瞼にそっとキスをした。

ふいうちに赤くなる新太に、美琴は、笑顔で言う。


「いつか…何年か後に…私は日本に帰ってくるから。だから…ーーーその時は、」


(あぁ…ーーー)


「私と結婚してください」



(本当に、美琴には敵わないな…ーーー)


新太は、美琴を抱き締めながらそう思った。

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