伝える言葉
「新太」
その日の夜、美琴は勇気を出して、新太の部屋にノックしてから入る。
ドアを開けると、新太が美琴の横をすり抜けて部屋から出ていこうとした。
「待ってよ新太」
美琴が新太のシャツを掴んで引き留める。
「こないだの、話をさせてよーーーー」
「聞きたくないって…」
新太がかぶせるように言う。
美琴が切なそうに新太を見つめて言う。
「新太、もう私のこと嫌いになっちゃった?」
「は?」
美琴の言葉に、新太は弾かれたように振り返り、美琴の顔を見る。
「私は…新太が好きだよ」
美琴が、泣くのをこらえて、必死に微笑んで言う。
「大学のこと、ずっと黙っててごめん。でも、騙してたとかじゃないの。新太の受験に響かないか…心配で言えなかった」
(分かってる…)
新太は心の中で言葉を返す。
「新太のことだから、きっとやる気が無くなるんじゃないかと…思って。」
「――――…」
「でも、それで余計に傷付けたならごめん…」
「もういい…よ」
新太は、美琴の見透かしたような言葉に、敵わないな…と思わず笑ってしまった。
「俺も…いつも余裕なくなってごめんね」
「新太…」
新太とすんなりと和解できて、美琴はホッとする。
そして、新太に微笑んで言う。
「卒業式が済んだら、私アメリカに発つよ」
「え…」
新太は、美琴とのタイムリミットを知り、絶句する。
「だから行く前に仲直りできて、よかっ―――」
美琴が明るく言いかけたところを、新太がギュッと抱き締めた。
(本当に敵わないんだよな…いつも俺の前を行く君にはー―――)
「新太…?」
きつく抱き締められながら、美琴が新太を見上げて言う。
「新太、泣かないで?――――“あの約束”も、ちょっと先延ばしになるだけだから」
(“あの約束”?)
「?」
新太がそっと腕の力を抜く。
美琴は一瞬背伸びして、新太の瞼にそっとキスをした。
ふいうちに赤くなる新太に、美琴は、笑顔で言う。
「いつか…何年か後に…私は日本に帰ってくるから。だから…ーーーその時は、」
(あぁ…ーーー)
「私と結婚してください」
(本当に、美琴には敵わないな…ーーー)
新太は、美琴を抱き締めながらそう思った。




