信じられない話
「アメ、リカ…?」
新太は唖然としていて、出てきた言葉はそれだけだった。
「―――ママが、実は再婚することになって…」
新太の反応は想定内だったが、実際目の当たりにするとやはりつらかった。
「その相手の人がね、なんと私の実の父親なんだよね…」
美琴はそう言っておどけるように笑う。
でも、新太には笑えない話だった。
「家族でアメリカに住むことになって、それで私、アメリカの大学に進学することに決めたの」
しばらく沈黙が流れる。
「―――――じゃあずっと、俺のこと騙してたの?」
新太が、目の前のコーヒーカップを見つめたまま、尋ねる。
(違う。本当は分かっている…美琴が俺に言わなかったのはー―――)
心の中ではそう思っているはずなのに、
“裏切られた”という思いがどうしても口を衝いて出てしまう。
「俺が必死で自分の偏差値に見合わない、無謀な大学目指して頑張ってたのは、美琴と同じ大学に行きたかったからなのにっ」
(八つ当たりだ、こんなのーーー。でも…)
「ごめん…新太。」
美琴が、頭を下げて謝る。
そして、美琴はゆっくり顔を上げる。
口許に笑みを浮かべて、目には涙を浮かべて。
「高校卒業したら、結婚しようって言ってくれて私…嬉しかった」
新太は、その先を聞く勇気がなかった。
「――――もういい…聞きたくない」
それだけ言うと、財布からお札を出しながらガタッと席を立ち、店から走って出ていく。
「新太っ」
美琴の声が、店内に虚しく響いた。




