表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はかる気持ち  作者: 夢呂
【第四章】
242/250

修羅場の回避

自分の気持ちを口に出しているうちに、気づくと美琴は無意識に涙を流していた。


「――――今だけ、貸してあげる」


美琴の座るベンチシートに、

律季が体を滑らせて隣に座ると、そっと美琴を抱き寄せた。



美琴は、涙を見せないように律季の厚意に甘え、胸に顔を埋めた。

「………っく」



(ずっと、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない)




新太との交際を反対されただけでなく、

まさか実の父親が母親と再会して、結婚することになるなんて――――…。


それは美琴の居場所は完全に“瀬戸家(あそこ)”には無いという現実(こと)を意味していた。


実の両親が結婚したら、本来()の家族と暮らすべきだと、それくらい美琴にでも理解できる。



両親が結婚して、アメリカで暮らす…ーーー

アメリカの大学に進学するべき環境が思いがけず整ってしまった。



(あと三ヶ月…ーーーー私が瀬戸家で過ごせる時間…)


美琴は、ずっと張りつめていた気持ちが緩んだ。




「――――――お、お客さま!?」

ウエイトレスの驚く声が聞こえてきたと思った次の瞬間。




「―――――俺も、一緒していい?」


新太の声がして、美琴は顔を上げる。

驚きのあまり、涙は止まっていた。


美琴がすぐに思ったのは、この状況を新太が誤解しているのではという不安だった。



「新太…」

律季が新太に言う。


「もちろん、ここ座れよ」

そう言うと律季は元々座っていた正面に座り、 美琴の隣に新太が座る。




「美琴、泣いてたの?」


対抗心からか、律季の前なのに新太が美琴の頬に触れる。



「美琴がさー、俺に同情して泣いてくれてたんだよ?」


律季が新太に説明を始める。

美琴は、律季が咄嗟に嘘をついてくれたのだと思い、話を合わせるために黙っていた。



「どういうこと?」

新太が信じられないというように律季を睨み付ける。



「俺さ…明日お見合いなんだよ」


「!?」

美琴は驚いて律季を見る。


「お見合い…?」

新太が聞き返す。


「そ…、親同士が有利になるためだけの、お見合い」

律季がわざと明るくおどけて言う。


「そか…」

新太が気まずそうに言う。


「―――美琴にその話したら泣き始めちゃってさ…」


そう言うと、律季が美琴をチラッと一瞬だけ視線を向けて言う。


「優しいよな」



「で、新太は大学受かりそうなの?」

律季が話を打ち切るように、新太に尋ねる。


「いや、正直ちょっと自信無い、かな…」

新太がうつ向いて答える。


「あと1ヶ月でセンター試験じゃん、俺で分かる問題なら、また聞けよ」


「ありがとう…」

律季に言われて、新太は素直に感謝する。


「でも、無理し過ぎるなよ?逆効果だから」


「律季って、本当に同級生(タメ)?」

律季の言葉に、新太がボソッと呟いて二人は笑い合った。


「卒業まであと三ヶ月しかないし、悔いの無いように過ごさないとな」

律季が笑顔で言う。


新太の隣で、同じように笑いながら美琴は律季に感謝する。


(律季、ありがと…―――)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ