相手の気持ち
隣の部屋のドアの閉まる音がして、新太は自分の部屋を出る。
「美琴?」
真太の書斎から美琴が戻ってきたのだと、すぐに美琴の部屋をノックする。
「美琴?」
けれど、美琴から返事がなかった。
「入るよ?」
そう声をかけてからドアを開けると、美琴の部屋は真っ暗だった。
真っ暗の部屋のベッドに、美琴がうつ伏せになっているのがなんとなく見えた。
「父さん、なんだって?」
新太が尋ねると、美琴は顔を上げずに答える。
「新太…、ごめん、一人にして」
美琴の態度は何かに追い詰められているように見えた。
「美琴…ーーーー」
新太が心配そうに近づこうと足を一歩踏み出すと、
「ごめん、本当に今は一人にして…」
先程よりも懇願するような美琴の声に、新太は黙って部屋を出た。
「父さん、美琴に何言ったんだよ!」
その足で、書斎に向かい、乱暴にドアを開けると新太は真太に迫る。
「新太…、お前も美琴のことを思うなら、少しは美琴の力になってやれ」
真太は気にせずデスクに向かいながら、冷静な表情で言う。
「なんの話?」
新太は、眉間に皺を寄せて聞き返す。
「お前、美琴の夢を応援する気はないのか?」
真太は、そう言ってから初めてデスクチェアを回転させ、新太の顔を見た。
「夢…?」
(…―――美琴の夢は、確か…通訳だよな…?)
「好きな人と離れたくないからって、夢を棄てる気だよ、美琴は」
真太が真剣な表情で新太を見る。
「え…」
突然の話に、新太は動揺した。
(夢を…――――棄てる?)
「新太は、それでいいと思う?」




