言いたいこと
「美琴、通訳になりたいって言ってたよな?」
真太の書斎に入るのは、ずいぶん久しぶりだった。
デスクチェアに座ったまま、真太が問いかける。
「うん、まぁ…」
立ったまま、美琴は気まずそうに、真太から目をそらす。
(“話”って、やっぱりそれか…―ーーーー)
それなら、次に来る言葉は予想できる。
「アメリカの大学に、行った方が将来的には良いんじゃないのか?」
「パパ…」
真太の言葉に、美琴はため息をつく。
「もしかして、ママに頼まれた?」
「美緒に頼まれたから言ってるんじゃないよ、パパは美琴のことを思って言っているだけで」
真太はそう前置きしてから、また話し出す。
「通訳になるなら、まず向こうの文化とか知るべきだろう?」
美琴は、目をそらしたまま言い返す。
「それなら去年一年間で学べたし…」
「一年間で学べた分だけで良いのか?――――本当は、もっと向こうで学びたいと思っているんじゃないのか?」
(パパの言いたいことは分かる、でも…ーーー)
「――――でも…」
(私は、新太と離れたくない…ーーーー)
言葉にすることができずに、美琴は下を向く。
「美琴、」
そんな美琴に、真太が優しく声をかける。
「好きな人がいるんだね?」
「え…」
気持ちを見透かされたのかと、美琴は、ドキッと心臓が跳ねた。
「その人と…離れたくない。そう思っている?」
「うん…」
美琴は、素直に頷く。
「だったら、そんな夢は諦めなさい」
真太がハッキリと強めの口調で言う。
「その程度の夢なら、叶えるべきじゃない」
「なんで…ーーー?」
美琴は、真太に否定されて、悲しさのあまり、声が出なかった。




