嫉妬
「ケンカしたんか?」
隣を歩きながら、友也が美琴に尋ねる。
待ち合わせて東京観光をする約束をしていた翌日、
美琴は明らかに元気がなかった。
「なんでこうなっちゃうかな…」
美琴はか細い声で言う。
(怒らせるつもりなんて無いのに、どうして新太は不機嫌になるんだろう…)
「まぁ、今日は一日観光楽しもうや」
友也がそう言って美琴の手を引いて歩き出す。
美琴は友也が明るくしようとしてくれるのが分かって、その優しさに少しだけ元気が出た。
「ありがとう」
「こんにちは」
「ども…」
夏期講習に向かう電車で、たまたま新太が乗った車両に早子が立っていた。
『新太はどうして怒ってるの?』
『嘘!それで怒ってないつもり?』
昨日の美琴の言葉が、何度も何度も自分を責める。
(怒ってない…。ただ、いじけてただけ――――…。)
自分の格好悪さに嫌気がさす。
同じ場所に向かうので、早子と新太は、特に話すこともなかったが一緒に電車を降りて、並んで歩き出す。
「元気がないのね?」
早子が前を歩きながらポツリと言う。
「そんなことないけど」
新太は、できるだけ普段通りに答える。
フワッと風が吹いて、早子の髪がさらりと靡いた。
その瞬間、美琴の香りがした気がした。
無意識に新太は、早子の髪を少しだけ触れる。
「え…?」
突然髪に触れられた早子は、驚いて新太を見上げた。
「あ…ごめん…ーーー!」
自分が早子の髪を触っていたことに気付き、新太は慌ててパッと手を離す。
(何やってるんだろう…俺は…ーーーー)




