表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はかる気持ち  作者: 夢呂
【第三章】
189/250

聞きたいこと

「すごいね菱川くん!ダントツで可愛かったもんね」

着替えを終えて、雫は校内を歩きながら話す。


「“可愛い”は褒め言葉になってないけど?」

律季は微笑んでいるが、目が笑っていない。


「あ、ごめん…」


確かに男子に“可愛い”は嬉しくないかもしれない。

でも言葉のチョイスを間違えたとは思えなかった。


それほど、律季の“可愛さ”は完璧だったのだ。


(美琴は、きっとこの人の内面に惚れたんだろうけど…――)

雫はチラッと隣を歩く律季を見る。


これだけイケメンで、言い寄られて断る女子はいないのではないかと、雫は思った。


「こっちこそごめん、本当は新太とこうしていたかったよね

苦笑いで律季が言う。


「え、なんで?」

“新太”の名前に、雫が素早く反応する。



「大丈夫。隠す必要ないよ、新太に言うつもりもないし」



「どうして…ーー」

雫は驚いて言葉が出てこない。


「知ってるかって?分かるよ、雫ちゃん顔に出てるから」

律季が雫の言葉を続け、自ら答える。




「で、何?」

人のいない校舎の片隅まで来ると、律季が改まったように尋ねる。


二人になると、律季があまりにイケメンで、雫はつい意識してしまう。


「え、いやいや…菱川くんが話したいって」

正面に立つ律季に、雫は目をそらしながら言う。



「うん。聞きたそうな顔してたから、美琴と別れたこと」

律季の言葉に、雫は目を合わせる。


(そうだよ…私気になってた。ずっと…―――)


「どうして別れたの?あんなに仲良かったのに…」


律季(かれし)の話をする美琴は、本当に幸せそうだった。


新太以外の男を好きになる日が来るとは思っていなかったから、雫は本当に意外で…本当に嬉しかった。


それなのに二年生に進級前の春休み、

美琴からメールで報告されたのは、“別れたこと”と“留学すること”だった。


一番驚いたのは、新太のことだった。

“留学する”なんて、新太なら絶対反対すると思っていた。

なのに、美琴から新太の話は一斎出なかった。


春に街で新太に会ったとき、

新太が(じぶん)の携帯電話の写メを見せたときの表情も、

“何かがおかしい”と勘づいていた。


まるで美琴とは連絡をとっていないみたいな、切なそうな新太の横顔が脳裏をよぎる。



「それに…新太と関係ある?」

勇気を出して雫がそう尋ねると、


「そう思う?」

悪い顔をして律季が笑う。


雫はからかわれたとだと思い、恥ずかしくて顔が赤くなる。

そんな雫を見て、律季がクスッと笑う。


「―――…別れたのは、新太と関係ないよ」

律季は安心させるように、微笑んだ。


「俺が面倒臭くなったからなんだ」



「なにそれ、最低ーーーー」

律季の心のうちを知らない雫は、言葉通り受け取って律季を睨む。

(前言撤回。内面に惚れる要素なんて無い!ただのチャラ男だこいつ…)


「そうだね、自分でもそう思う」

律季が雫の言葉に、不本意そうに頷く。

「…でも良かったんだよ、これで」


「良かった?」

(それは、美琴が騙されたまま付き合い続けることにならなくて済んだからってこと?)

律季の言いたいことが全く分からず、雫は首を捻る。



「雫ちゃんも、新太が好きなら分かるよ」


「え…」

律季が意味深な言葉を口にした直後、

クラスメイトが雫の名前を呼んでいる声が聞こえてきた。




「あ、ここにいたの雫!―――…ってごめん…私邪魔しちゃった?」

雫の姿を見つけて駆け寄ってきたクラスメイトが、律季の姿に気付いて慌てる。



「じゃあね、雫ちゃん」

律季は、あっさり雫の横を通りすぎて、先に歩いていく。



「嘘…、マジで私邪魔しちゃった?」

立ち尽くす雫に、クラスメイトがオドオドしながら謝る。


「違うよ、そんなんじゃないから」

雫は、律季の背中を見つめながら独り言のように呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ