斗亜のバイト先で
「そっか、美琴帰ってったんだ」
律季は飲み物に視線を落としながら、言った。
「…うん」
向かいの席に座っていた新太も、ただ頷く。
「寂しいな」
律季がそう言うと、新太の頭の中で、美琴の声が聞こえた。
『そりゃあ…嫌いになって別れた訳じゃないからね』
「…別に」
「素直じゃねーな、新太は」
律季が素っ気なく言う新太に、苦笑する。
「今更なんだよ、その反応」
新太は顔を上げて、律季を見る。
「無理やり、俺から奪ったくせに」
微笑んで、律季が言う。
「律季、あんまいじめんなよ」
飲食店の制服を着た斗亜が、二人の前に立つ。
「いじめてねーし。てか斗亜は、マジメに仕事してろ」
「してるだろーが」
そう言いながら、二人のグラスに水を注ぐ。
「新太は美琴が好きなんだろ?」
律季が気持ちを見透かすように言う。
(美琴はまだ、律季が好きなんだよ…)
悔しくて口には出せず、新太は心の中で言う。
「…――――」
(もしかしたら俺は、律季の代わりだったのかもしれない)
「あの…、ちょっと良いかな?」
黙り込んだまま新太を、律季はなぜ答えないのかという顔で見ていたとき、突然声をかけられて二人は同時に顔を上げる。
「君たち暇?これから私達とどこか遊びに行かない?」
「てか、すごいかっこいいねー、彼女とかいる?」
「いないですよ」
律季が微笑んで応える。
新太は、そんな律季に感心していた。
(なぜ知らない女に突然話し掛けられて、笑顔で対応できるんだ?)
「え、マジで?てか大学生かな?」
見るからに大学生な、彼女達二人は、スタイルも良く、可愛らしい顔立ちだった。
声をかけてくるあたり、自分が可愛いと自負しているのだと律季は冷静に判断する。
「いや、高2」
「えっ!高校生?――――全然良い!」
「大人っぽいねー!」
キャピキャピとテンションの上がる女子大生に、堪らず新太は席を立った。
「新太?」
「帰る」
会計伝票を手にすると、不機嫌そうに新太はとレジへ向かう。
「ごめん、お姉さん達。―――またね」
律季は、新太を追うために彼女達に愛想よく手を振って別れた。
「律季…彼女いないとか嘘つくなよ」
追い付いた律季に、新太が怒ったように言った。
「嘘じゃねーし。由希ちゃんとは別れた」
なぜ怒っているのか分からなかったが、律季は新太に話す。
「え?」
「今は彼女募集中…――――なんて、な」
力なく笑ったあと、律季は真顔になって言った。
「なんかもう、面倒くさくなったわ…彼女とか―――」
(誰かと付き合うとか…そんなもの、今の俺には必要なかった)
もっと気軽に、割り切らないとダメなのに。
以前の自分なら、容易くできていたはずだったのに。
(なんだろう…上手くいかないんだよな…ーーーー)




