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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第三章】
182/250

夏の思い出

美琴は、朝の五時に目が覚めた。

背中を向けたままの新太が、ベッドに眠っていた。


(新太の背中…広いなぁ…――――ギュッてしたいな…ーー)


美琴がベッドに手をつくと、ギシッとベッドの軋む音がした。


「ん………?みこと?」

寝言なのか、新太が呟きながら寝返りを打つ。

我に返って、美琴は慌ててベッドから離れた。



「新太…行ってくるね…」

寝ている新太に、そっと囁いて、美琴は部屋を出ていった。









朝の四時ごろまでは起きていた気がする。

眠りについた美琴の寝顔を新太はベッドの上から見つめていたはずだった。


それなのに、気が付いたら夢の中にいた。


何の夢だったのかは…思い出せない。

でも、胸が苦しんで切ないような夢、楽しい夢ではなかった気がする。




「…ん」

目が覚めたとき、床に敷かれていた布団が視界に入った。

そこに眠っていたはずの美琴の姿がない。


(――――行ってしまったんだ…ーーー)

ベッドから気力なく起き上がって、新太は思った。


(見送り…行けなかったな…)

行けなかったのか、行かなかったのか…ーー――。



(笑顔で送り出せる気がしなかったし、これで良かったのかもしれない)



美琴と過ごした夏休みは、あっという間に終わってしまった。




『また、帰ってきてもいい?』

震えた声で美琴が言った、昨晩のことば。


(――――…居場所を奪ったのは、俺だったのに。)


美琴がこの家に帰ってきてくれた。



以前のように、自分に笑顔を向けてくれた。

以前とは違う、恋する女の子みたいな表情(かお)をすることもあった。


ふと視線を向けた勉強机に、見慣れない物が置いてあった。


(なんだこれ……)


よく見ると、大きなブルーのラッピング袋の下に、

白い便箋に見慣れた文字が並ぶ。


文字を見てから、袋の中を見て、新太は笑ってしまった。


『Happy Birthday 新太』


(俺の誕生日、3月なんだけど。)


そう思いながら、手紙を手にすると、便箋の下には続きがあった。


『3月に誕生日なのに、今更だよね。ごめん。

本当はいつもみたいにお祝いしたかったんだけど…。

留学の手続きで、バタバタしてたから。ごめんね』


(美琴…ーーー)

少し行間を空けて、続きが書かれていた。



『なんて言い訳しても、きっと新太は気付いてたよね。

本当は、どんな顔して新太に会えばいいのかずっと混乱してた…。


夏休み、いつもみたいに楽しく過ごせて、本当に嬉しかったよ。ありがとう。

今度は、海も行きたいな!じゃあ行ってきます!



P.S.私がいなくても、泣かないんだよ!』



(美琴…ーーーー)


目頭が熱くなって、新太は片手で顔を覆う。


(だから、ビーチサンダルか…ーーーーどんだけ自分本意だよ…)


美琴らしくて、フッと笑ってしまう。

笑っているはずなのに、涙が溢れる。


『私がいなくても、泣かないんだよ!』

美琴の最後の言葉(もじ)が滲んで見える…。



(本当に、美琴には敵わない…ーーーーー)





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