表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はかる気持ち  作者: 夢呂
【第三章】
181/250

消え行く花火

(結局、大切なことは何も言えないまま…花火大会(このひ)を迎えてしまった…)



新太が好きなことも、明日アメリカに発つことも、何も。



新太が花火大会に誘ってくれるなんて、嬉しくて…楽しすぎて。


新太の隣で見る花火は、ドキドキして…今までで一番キレイに見えた。



胸に響く花火の音、一瞬で消える美しい光。


(このまま、ずっとこうして傍に居たかった…)


アメリカ留学を決めたのも自分、夏休みの帰国期間(タイムリミット)を決めたのも、自分だ。




「ありがとね、新太…」


(変わらずに…接してくれて…ーーーー)



「――――お陰で、楽しい夏休みだったよ…」

((そば)に、居させてくれて…ーーーー)



「私ね、明日戻らないといけないの」

(私は泣かない…泣いたら戻れなくなる…ーーーーーだから)



「新太…泣かないで…?」

(そんな表情(かお)で、お別れなんて出来ない…ーーー)






その夜、美琴が布団を持って新太の部屋に訪れた。


「今日は、朝まで話そ!」

ベッドの横の床に布団を敷きながら美琴が言う。



「新太、バイトは夏休み終わっても続けるの?」


「いや、やらないと思うよ」




「美琴は、向こうでは英語で話してるの?」


「It's obvious! 」


「え、何?」


「Of course!」


「なんか、ムカつく…」


「なんでよ?」




「新太は、二年のクラスはどんな感じなの?」


「斗亜と、蛍と同じクラスだよ」


「そっか。蛍ちゃんは元気?」


「元気だよ…」


「そっか」



――――お互いの会話が途切れて、静まり返る。



「新太…」

さっきまでとは違う声色で、美琴が口を開く。


「…何?」

ベッドに横になったまま、新太が聞く。


「また、帰ってきてもいい?」

少し震えた声で、美琴が言う。


「良いに決まってるじゃん」

(なんでそんな弱気なんだよ…ーーーー)


「ここは、美琴の家なんだから」

(早く帰って来てよ…ーーーー)




「…うん、そだね」

グシッ…グシッ…と鼻をすする音がした。


(美琴が…泣いてる?)



「明日朝出発なんだろ?もう寝よう…おやすみ」

言いながらティッシュ箱を美琴に投げて、背を向けると新太は眠るふりをした。


(眠れるわけない…こんな近くに、美琴(きみ)がいると思うと…ーーーー)


本当は抱き締めたい。

キスがしたい。


でも、出来ない。

(君と俺は、“姉と弟”として(ここ)にいるんだから…――――)




美琴は鼻をかみながら、新太の優しさに触れる。

わざと背を向けてくれた理由(こと)


(まるで、花火の光みたいね…ーーー)


あんなに大きく咲くのに…散るのは一瞬。


(泣き虫の新太も、好き…―――)



あんなに人々を魅了するのに、すぐに消える。


(傍に居たくても、居られない自分…ーーーー)


包み込まれるような、光のシャワー。


(ずっとずっと…変わらずに優しい新太…――――)



もどかしい想いは、消えていけばいい。

記憶には、綺麗な部分だけが残ればいい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ