消え行く花火
(結局、大切なことは何も言えないまま…花火大会を迎えてしまった…)
新太が好きなことも、明日アメリカに発つことも、何も。
新太が花火大会に誘ってくれるなんて、嬉しくて…楽しすぎて。
新太の隣で見る花火は、ドキドキして…今までで一番キレイに見えた。
胸に響く花火の音、一瞬で消える美しい光。
(このまま、ずっとこうして傍に居たかった…)
アメリカ留学を決めたのも自分、夏休みの帰国期間を決めたのも、自分だ。
「ありがとね、新太…」
(変わらずに…接してくれて…ーーーー)
「――――お陰で、楽しい夏休みだったよ…」
(家に、居させてくれて…ーーーー)
「私ね、明日戻らないといけないの」
(私は泣かない…泣いたら戻れなくなる…ーーーーーだから)
「新太…泣かないで…?」
(そんな表情で、お別れなんて出来ない…ーーー)
その夜、美琴が布団を持って新太の部屋に訪れた。
「今日は、朝まで話そ!」
ベッドの横の床に布団を敷きながら美琴が言う。
「新太、バイトは夏休み終わっても続けるの?」
「いや、やらないと思うよ」
「美琴は、向こうでは英語で話してるの?」
「It's obvious! 」
「え、何?」
「Of course!」
「なんか、ムカつく…」
「なんでよ?」
「新太は、二年のクラスはどんな感じなの?」
「斗亜と、蛍と同じクラスだよ」
「そっか。蛍ちゃんは元気?」
「元気だよ…」
「そっか」
――――お互いの会話が途切れて、静まり返る。
「新太…」
さっきまでとは違う声色で、美琴が口を開く。
「…何?」
ベッドに横になったまま、新太が聞く。
「また、帰ってきてもいい?」
少し震えた声で、美琴が言う。
「良いに決まってるじゃん」
(なんでそんな弱気なんだよ…ーーーー)
「ここは、美琴の家なんだから」
(早く帰って来てよ…ーーーー)
「…うん、そだね」
グシッ…グシッ…と鼻をすする音がした。
(美琴が…泣いてる?)
「明日朝出発なんだろ?もう寝よう…おやすみ」
言いながらティッシュ箱を美琴に投げて、背を向けると新太は眠るふりをした。
(眠れるわけない…こんな近くに、美琴がいると思うと…ーーーー)
本当は抱き締めたい。
キスがしたい。
でも、出来ない。
(君と俺は、“姉と弟”として家にいるんだから…――――)
美琴は鼻をかみながら、新太の優しさに触れる。
わざと背を向けてくれた理由。
(まるで、花火の光みたいね…ーーー)
あんなに大きく咲くのに…散るのは一瞬。
(泣き虫の新太も、好き…―――)
あんなに人々を魅了するのに、すぐに消える。
(傍に居たくても、居られない自分…ーーーー)
包み込まれるような、光のシャワー。
(ずっとずっと…変わらずに優しい新太…――――)
もどかしい想いは、消えていけばいい。
記憶には、綺麗な部分だけが残ればいい。




