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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第三章】
178/250

初めてのバイトで

『まだ律季のこと…好きなんだ?』


『そりゃあ…嫌いになって別れた訳じゃないからね』


(結局あの“答え”は、『まだ律季が好き』ってことなんだよな?)



斗亜とバイトの面接を受けにいくはずだった日、

新太は美琴と映画の試写会に行くことを優先した。



映画の内容は、ほとんど記憶に残っていない。

隣で泣いている美琴の横顔ばかりが、記憶に残っていて…。


(聞きたいのに、聞けない。今のこの関係が崩れてしまいそうで…ーーーー)



「ちょっと瀬戸くん」


「…――――」


「瀬戸くん!!」

ものすごい形相で、社員の木津(きず)さんが新太を睨んでいた。

「あ、ハイ…―――」


「ボケッとしてる時間があるなら働いてくれるかしら?」

本とブックカバーの紙を渡しながら、木津さんが言う。



「すみません…」

(しまった…。初日からボーっとしてた)


「あのぅ…」

木津さんに頭を下げている新太のレジの前に、一人の客が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ…」

急いで接客の挨拶をする新太に、

「え…瀬戸くん…?」

絶句していたのは、新太と同じクラスの…ーーー。


「深雪さん…」



バイトの初日にクラスメイトに会って、新太は焦る。



「瀬戸くんが本屋でバイトなんて、ちょっと笑えるわね」

無表情の早子がそんな冗談(こと)を言う。

「クラスの女子が知ったら、毎日凄そう…」



「うわ…考えただけで恐ろしい…」

早子が探していた本の売り場を案内しながら、新太が呟く。


(クラスの女子が来たら…木津さんとか機嫌悪くなりそうだな)



「なんか瀬戸くん、明るくなったわね」

そんな新太の後ろを歩きながら、早子がボソッと呟く。


「私と同類かと思っていたのだけど…」


「?同類って?」

新太が早子の探していた本を手渡しながら尋ねる。


「不毛な片想い」

その本を受け取ると、早子はレジへと歩いていってしまった。



「?」

(同類?“不毛な片想い”?)

表情からも、少ない言葉からも、早子の指す意味が分からずに、新太は立ち尽くす。


(深雪さん…好きな人いたんだな…ーーーー)

取りあえず分かったことは、それだけだった。


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