測る気持ち
「新太、これ…ママに貰ったんだけど一緒に行かない?」
夏休み三日目の夜、
新太の部屋に来た美琴が、緊張した面持ちで誘ってきた。
「映画?」
「うん、試写会のチケット。」
上目遣いで、美琴が新太を見つめる。
「ダメ?」
(美琴は、一体どういうつもりなんだろう…)
渡されたチケットを眺めながら、新太は必死で考える。
『ごめん』
この間美琴が謝った理由も分からないまま、今度は映画の誘い。
「あ、この日…はちょっと」
斗亜とバイトの面接を受けにいくことを思い出して、新太はチケットを美琴へ戻す。
「え…」
新太に断られることを想定して居なかった美琴は一瞬身動きがとれないでいた。
「美琴…、」
そんな落ち込むとは思わなかった新太は、
やっぱりバイトの面接をキャンセルしようと思った。
「やっぱり俺…」
「そっか、じゃあ雫か十河先輩に聞いて…――――」
新太からチケットを受け取りながら美琴が笑顔で言う。
「待って」
“十河先輩”の名前が出てきて、新太は焦って言う。
「行くから」
美琴の手にあったチケットを取り上げて、新太は言う。
「一緒に行こう?」
「うんっ」
新太が言うと、美琴が嬉しそうに頷いた。
(やば…っ)
その瞬間、赤面しながら新太はすぐに美琴を部屋から追い出すと後ろ手でドアを閉める。
(可愛すぎる…ーーーー)
間違えないように、新太は何度も心の中で唱える。
(お姉ちゃんなんだから、お姉ちゃんなんだから…ーーーー)
「新太…?」
突然閉められたドアに顔を近づけて、美琴が新太の名前を呼ぶ。
「ご、ごめん…もう眠くて…」
ドア越しに、新太は苦しい言い訳をする。
抱き寄せたい衝動にかられた自分に、一生懸命暗示をかける。
(俺は“弟”だ。弟として、仲良くしないと…ーーーー)
きっと次は本当に許してもらえない。
もう、あんな想いをさせたくないし、したくない。
「そっか、ごめんね…おやすみ」
ドア越しに美琴がそう言うと、しばらくして隣の扉が閉まる音がした。
(『ごめんね…』?)
――――美琴の様子がおかしい。
いつも、もっと自分勝手で、強引で…。
(あれじゃあ…まるで…ーーーーー“恋する乙女”じゃないか…ーーー?)




