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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第三章】
173/250

疑惑

美琴がまた同じ屋根の下で暮らすようになった。


新太はようやく美琴の居ることを実感し始めていた。

夏休み初日、久しぶりに安眠できた新太は、蝉の鳴き声がうるさくて目を覚ます。


(暑いな…ーーーークーラーでも点けるか…ーーー)


ぼやっとした頭で、クーラーのリモコンを探そうと手を伸ばす。


「ん…」



(なんか今…触わった?…ーーーそれにこの香り…)


ベッドにあるはずのない感触に…、

心地好い、覚えのある香りに気付いた新太は、

うつ伏せのまま、上半身を起こそうとして目を覚ました。


「!!!?」


驚きすぎて、声が出なかった。


スヤスヤと天使のような寝顔で、美琴が眠っていたのだった。


ガタッとベッドから落ちそうになりながら、新太は起き上がる。




その音で、目を覚ました美琴が寝ぼけ(まなこ)で新太を見つめる。



「な…っ」


(なんで美琴が、ここに?)




「新太?」

キョトンとした顔で、美琴が新太を見つめる。



「何してるの?美琴の部屋は隣だろ?ボケたのかよ…」


「あ、ごめん…」

シュンと下を向いて、美琴が謝る。


(なんで?どうしてこうなった?――――期待させないでくれよ…)




「怖い夢見たら…寝付けなくなって…ごめん」

(確かに小さい頃は一緒に寝たりしてたけど…ーーー)


あの頃は、新太が怖い夢を見たと言うと、美琴が一緒の布団で寝てくれた。


(美琴が怖い夢見て寝付けなくなる?――――そんなこと一度もなかったのに…)



「いや、別に驚いただけで…ーーー」

美琴をフォローしようと新太は慌てて言う。



(美琴は、美琴のはずなのに…なんだろうこの違和感…ーーー)






「美琴、今日なんか予定あるの?」

すでに仕事に出掛けて行った両親の居ない家で、

二人で遅めの朝御飯を食べながら新太が美琴に尋ねる。


「今日、撮影だよ。明日も。」


「へぇ」

(撮影(しごと)で帰国したって言ってたもんな…)


新太は食べながら、納得する。


「新太は?」

美琴がコーヒーを飲みながら、新太の予定を聞く。


「あぁ、バイトでもしようかって斗亜と」


「バイト?」

美琴が驚いたような顔をする。


「うん」


「何のバイト?」


「いや、まだ決めてないんだけど…飲食店かなぁ」

斗亜が、力仕事や暑い場所は嫌だと言っていたのを思い出しながら、新太が言う。



「そっか、頑張ってね…」

美琴はそう言うと、食べ終わった食器を持ってキッチンに向かう。


「あ、うん…」

新太は美琴の様子がおかしいことに疑問を持ちながら頷く。


(なんか、悩んでる?)


姿は確かに“美琴”なのに、性格が…違う気がする。


(君は、誰ーーーー?)

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