疑惑
美琴がまた同じ屋根の下で暮らすようになった。
新太はようやく美琴の居ることを実感し始めていた。
夏休み初日、久しぶりに安眠できた新太は、蝉の鳴き声がうるさくて目を覚ます。
(暑いな…ーーーークーラーでも点けるか…ーーー)
ぼやっとした頭で、クーラーのリモコンを探そうと手を伸ばす。
「ん…」
(なんか今…触わった?…ーーーそれにこの香り…)
ベッドにあるはずのない感触に…、
心地好い、覚えのある香りに気付いた新太は、
うつ伏せのまま、上半身を起こそうとして目を覚ました。
「!!!?」
驚きすぎて、声が出なかった。
スヤスヤと天使のような寝顔で、美琴が眠っていたのだった。
ガタッとベッドから落ちそうになりながら、新太は起き上がる。
その音で、目を覚ました美琴が寝ぼけ眼で新太を見つめる。
「な…っ」
(なんで美琴が、ここに?)
「新太?」
キョトンとした顔で、美琴が新太を見つめる。
「何してるの?美琴の部屋は隣だろ?ボケたのかよ…」
「あ、ごめん…」
シュンと下を向いて、美琴が謝る。
(なんで?どうしてこうなった?――――期待させないでくれよ…)
「怖い夢見たら…寝付けなくなって…ごめん」
(確かに小さい頃は一緒に寝たりしてたけど…ーーー)
あの頃は、新太が怖い夢を見たと言うと、美琴が一緒の布団で寝てくれた。
(美琴が怖い夢見て寝付けなくなる?――――そんなこと一度もなかったのに…)
「いや、別に驚いただけで…ーーー」
美琴をフォローしようと新太は慌てて言う。
(美琴は、美琴のはずなのに…なんだろうこの違和感…ーーー)
「美琴、今日なんか予定あるの?」
すでに仕事に出掛けて行った両親の居ない家で、
二人で遅めの朝御飯を食べながら新太が美琴に尋ねる。
「今日、撮影だよ。明日も。」
「へぇ」
(撮影で帰国したって言ってたもんな…)
新太は食べながら、納得する。
「新太は?」
美琴がコーヒーを飲みながら、新太の予定を聞く。
「あぁ、バイトでもしようかって斗亜と」
「バイト?」
美琴が驚いたような顔をする。
「うん」
「何のバイト?」
「いや、まだ決めてないんだけど…飲食店かなぁ」
斗亜が、力仕事や暑い場所は嫌だと言っていたのを思い出しながら、新太が言う。
「そっか、頑張ってね…」
美琴はそう言うと、食べ終わった食器を持ってキッチンに向かう。
「あ、うん…」
新太は美琴の様子がおかしいことに疑問を持ちながら頷く。
(なんか、悩んでる?)
姿は確かに“美琴”なのに、性格が…違う気がする。
(君は、誰ーーーー?)




