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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第一章】
15/250

ファミレスでカオス

「いらっしゃいませ…って美琴…」

「え、先輩ー!?嘘ー、バイトですか?」


斗亜のテンションは瞬間で、急降下した。


二人きりで勉強会という口実の元、

ファミレスに足を踏み入れた途端に美琴は、

自分の知らない、“先輩”と楽しそうに話し始めた。


「あ…と、とりあえずお席にご案内します」

“先輩”は、斗亜の刺すような視線に気づいたのか、

慌ててぎこちなく接客をする。





「十河先輩、ここでバイトしてたんですねー!もうビックリしちゃったー!」

「美琴、もう少し声抑えて…」

すばるが慌てて人差し指を口に当てる。


「あ、ごめん…!」

美琴は笑顔で素直に小声になり、すばるに謝る。


「ご注文は?」

「ソフトドリンクとー、チョコレートパフェ!」

二人が話すのを、斗亜はじっと見つめていた。


「斗亜は?」

何気なく、美琴が斗亜に聞く。

「え、あぁ…俺も同じやつで」

突然二人の視線が自分に集まって、なぜか慌ててしまう。



「なぁ…今のって誰?」

すばるが厨房に行くのを見届けてから、斗亜が美琴に尋ねる。

「ん?あぁ、斗亜知らない?同じ高校の先輩」

美琴が勉強のためのノートを開きながら言う。


「知らねぇよ、どこで知り合うんだよ」

美琴に怒りをぶつけながら、斗亜は自己嫌悪に陥る。

(こんなつもりじゃなかったのに…チキショー…)


「ナイショ」

愉しそうに笑って、美琴が言う。

その姿がまた可愛くて…勇気がでなくて…、

それ以上は、聞きたいのに踏み込めなかった。



「ーーーあれ?斗亜と美琴じゃん!」

激しく落ち込んでいた斗亜の耳に、幻聴だと願いたくなる声が聞こえてきた。


(律季(あいつ)…しらじらしく登場しやがってーーー)


「あれ?律季、一人?」

美琴は、何も知らず笑顔で手をあげる。


「うん、俺も一緒していい?」

そして聞きながら、美琴の隣に座った。


「良いなんて、言ってねーけど?」

邪魔者を見る目で、斗亜が睨み付ける。


「新太は、彼女とデートだし、俺一人で寂しかったんだもん…」

「そんな表情(かお)してもダメ!」


「いいじゃん、斗亜のケチー!勉強教えてやるからさぁ仲間に入れてよ」


「あはは!斗亜と律季、本当に仲良いんだね!」

二人のやりとりを見ていた美琴が笑いながら言った。

「いいじゃん、斗亜!三人でやろ?」


「お待たせ致しました、チョコレートパフェです」

そこに、すばるがチョコレートパフェを運んできた。


「わぁい!斗亜、ゴチになりますー」

美琴が嬉しそうにはしゃぐ。


「先輩、お仕事頑張ってね!」

美琴がチョコレートパフェを掬いながら、すばるに話し掛ける。

「ありがと、美琴。ーーーごゆっくりどうぞ」

すばるは美琴に微笑むと、斗亜と律季に頭を下げて仕事に戻っていった。



「なに、今の…」

何も知らない律季は、こそっと斗亜に話し掛ける。


「うちの高校の先輩…」

斗亜が、パフェに夢中の美琴に聞こえないように答える。


「……十河すばる先輩、私の友達だよ」

美琴はパフェを食べながら、二人に答える。


「へぇ…」

律季は、興味深そうに仕事をするすばるを見ながら言う。

「美琴は、社交的なんだね」


「別に?ーーーーそれより、斗亜のこれ、ひどくない?」

スプーンをくわえながら、

斗亜の数学の解答を指差して美琴が言う。


「斗亜、どうやったらこうなるの?」


「え?」

斗亜は、美琴がなぜ愕然としているのか、分からずに聞き返す。


「うわ…分からない…こんな簡単な問題が解けない斗亜が分からない…」

美琴が引きぎみに言う。

「ちょっと…律季、助けてあげてよー。」


「あぁ、これ?斗亜、この問題の場合はさ…」

律季は、美琴に言われて斗亜のノートを覗き込む。


二人が数学に取り掛かっている間、

美琴はご機嫌にパフェを食べ続けていた。


仕事をしているすばるを目で追いながら食べていると、

偶然、美琴の方を向いたすばると目が合った。


美琴がすぐに笑顔で小さく手を振ると、すばるは頬を少し赤くして微笑んだ。


そしてすばるは、また仕事に戻る。


美琴はそんなすばるを微笑ましく見ていた。

(十河先輩の、意外な一面見ちゃったなー。またここ来ようっと)


斗亜は律季の説明を聞きながらも、ふと顔を上げたとき…、

美琴が笑顔で手を振るところを見てしまった。


ズキンと胸が痛む。


ーーー自分だけが、美琴の“特別”だと思っていた。


でも、斗亜の知らないところで、美琴は他にも“居場所”を持っていた。


(知らない方が幸せだったのか…、今知っておいて良かったのか…)


雑念にとらわれて、ため息を付く。



「美琴、斗亜(こいつ)全く聞いてねーんだけど」

律季が美琴にそう言ったことも、斗亜の耳には届いていなかった。











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