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はかる気持ち  作者: 夢呂
【第二章】
149/250

アイスクリーム

朝起きると、美琴は居なくなっていた。


『きっと仕事だ』


そう思っていたから、何も気にしてなかった。


いや、正確には…“気にしないように”していた。




なのにその日、美琴は何時になっても帰ってこなかった。



「はい瀬戸でございます」

家の固定電話が珍しく鳴って、仕事から帰ってきた舞子が受話器をとる。


「あぁ、どうも…。え?美琴が?」


『美琴』の3文字に、リビングでボーッとしていた新太は即座に反応する。


(美琴に、何かあったのか?)


固定電話で話す舞子の隣に立って、聞き耳をたてる。

しかし、聞こえるはずもなく、通話が終わるのを今か今かと新太は待った。


「ええ、分かりました。――――はい、それでは宜しくお願いします」



「美琴、どうしたの?」

受話器を置く前に、新太は舞子に尋ねる。


「美琴、しばらく美緒さんの所で暮らすみたい」

舞子が寂しそうな表情で受話器を置く。



「は?」


(俺のせいだ…ーーーー)


「あの子、急に家を出るなんて…私もショックだわ…」

舞子が言いながらキッチンへと戻っていく。




(俺のせいで美琴が出ていった…ーーーー)



リビングのソファーに力なく座り、新太は頭を抱える。



――――考えれば分かることだったのに。

美琴と一線を越えてしまえば、こうなることぐらい。


もともと美琴は、この家に居続けて良いのか悩んでいた。


自分だけが血の繋がらない家族で、実の母親が一緒に暮らしたがっていて…。


それでもこの家に残っていてくれたのは…ーーーー。


(俺が“弟”として美琴の傍にいたからだったのに…)




「新太、はいこれ」

しばらくして、舞子がキッチンからリビングへ来ると、

新太の手にアイスクリームを乗せた。



「何、これ…」

渡されたアイスクリームに、新太が戸惑う。


「今日は美琴いないからさ、食べたら?」

舞子がそう言うと、新太の隣で自分もアイスクリームを食べ始めた。


「―――新太、好きでしょこれ」

舞子が微笑んで、言う。






(こんな風に…好きなものを欲しがらなければ良かったのに)

渡されたアイスクリームを見ながら、新太は幼い頃の記憶を思い出す。




―――大好きなアイスクリームを、美琴に奪われた。


『新太、アイス嫌いだもんね?』


大切に食べていたアイスクリームをようやく半分食べ終わった頃、

同じアイスをすでに食べ終えた美琴が新太にそう言ったのが始まりだった。


『え、僕は…』


『お姉ちゃんが食べてあげる!ほら、』


新太の言葉を遮るように、美琴が新太のアイスを取り上げる。


『あ…』

(僕の…アイスクリームなのに…――――)


半泣きで美琴をじっと見つめていると、

美琴があまり美味しそうに…幸せそうに食べるから…―――。



新太はその日から、アイスクリームを『嫌い』になった。



(欲しがったりしなければ…美琴の笑顔を奪うこともなかったのに…)




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