美緒と美琴
「急に“一緒に暮らしたい”なんて、どうかしたの?」、
「…――――」
美緒の問い掛けに答える事もできず、美琴はうつ向いたまま押し黙る。
「ま、私としては嬉しい限りだけどね」
明るく笑って、美緒が美琴の肩を叩く。
「舞子さんや真太に挨拶してきたの?」
「…―――」
黙って首を振る美琴に、美緒は何となく察して黙る。
(―――家出…ってところかしらね)
それでも自分のところに来てくれて、美緒は嬉しく思う。
美琴は、また向こうの家に戻るつもりなのだろう。
「喧嘩でもした?」
お茶でも淹れようとキッチンへ向かいながら、美緒が美琴に尋ねる。
「――――私…居ない方が良かった…」
ソファーに膝を抱えて小さく丸まりながら、美琴が呟く。
「何よ、それ…―――誰かに何か言われたの?」
――――言われたこと…
そう聞かれてすぐに思い出すのは――――、
あの時何度も囁かれた…新太の“愛してる”の言葉。
あの家で育っていなければ…、
あの家で新太に出会ってなかったら…、
私と新太に接点なんて、なかったのに――――。
「どうしてよ…ママ…」
あの家で、“姉”として暮らしていたかった。
何も知らずに、ずっと仲良く…楽しく暮らしていたかった。
こんな風に…なるぐらいならーーーー何も知りたくなかった。
「ママが私を置いてきぼりにするから…」
(違う…悪いのはママじゃない…ーーーー)
泣き出す美琴の隣に座って、美緒は幼ない子供をあやすように包み込む。
「ごめんね、美琴…ーーー」
美緒は優しい声色で言う。
「ごめんね…」
(ママは悪くない…―ーーー悪いのは…私…ーーーー)




